ある日のこと、いつものように細道を歩いているとヘビが蛙を飲み込もうとしておった。ギュ、ギュ鳴いている蛙が可哀相になり、「ヘビさんヘビさん、蛙さんを食べないで助けて下さい」と何度も何度もお辞儀したと。ヘビは喰えていた蛙をはなすと目玉をむき出し、長い舌をぺ口ぺ口しながら、「蛙を助けた代わりにお前を身代りにほしい。十日の夜にお宮の裏の池に必ず来るように」と言って、すうと消えたと。
娘は家に帰ってもおとうにも話せず、青い顔をして悲しそうにしておった。おとうは不思議に思いどうしたのか訳を話してくんろと何度も聞いたと。娘は実は今日ヘビが蛙を食べようとしておったので助けたら、その代わりに私がヘビの所に行かなくてはならないことを話したと。おとうは驚いて黙って考えておった。
いよいよお宮様の池に行く日が来た。おとうは針千本を袋に入れ、これをヘビをめがけて投込みなさいと娘に渡した。娘はそれを持ってお宮の池に着いてびっくり仰天。池の中には大きい大蛇の順に一列に並び、裃を着て赤い舌をぺ口ぺ口しながらあぐらをかいていとぐろ巻いておった。娘はおとうにもらった針を大蛇めがけて投げ込んだと。大蛇はもがき苦しみながら、白い腹をひっくり返し死んでしまったと。辺りは真暗になって南も北もわからなくなって困ってしまった。
すると遠くかすかに明かりがポツンと見えたので、明かりの見える方に急いだと。「トン、トン」と戸を叩くとしばらくして、戸がすーと開き、うす暗い中から蛙のずきんを被ったおばあさんが出て来たと。娘は「道に迷って困っています。どうか一晩泊めて下さい」と頼んだそうな。おばあさんは娘をよーくよーく見ておったと。そして、「お前さんは家の子供がヘビに飲まれそうになったところ助け下さった方でしょう。だが、家は見るとおりのあばら屋で泊めることが出来ないから向こうの灯の見える家に行って泊めてもらいなさい。これは子供が助けてもらったお礼です。」と被っていたずきんをくれたと。
娘はそれを被って灯の見える家に着いたと。その家はお金持ちの立派な家だったと。門番がおって「道に迷って困っています。どうか一夜泊めて下さい」とお願したと。門番は娘をよーく見てその様なみすぼらしいばあさんは泊められないと断られてしまったと。娘は物置の隅でも良いから泊めて下さいと頼んだと。それならお湯に入って来なさいと言われた。お湯から出た娘はそれはそれは美しい娘だったと。娘を見た旦那様はお前さんは家の娘になってくれともらわれたと。
おとうも娘が毎日お宮参りした御利益で体も丈夫になり。おとうも娘も幸せに暮したと。
図8 蛙のずきん