「半夏」に次いで盛助が作品を発表したのは、明治四十三年十月一日発行の文芸雑誌「昴(スバル)」十月号(第二年第十号)で、連載となりました。
作品の名は「子」。主人公は「半夏」と同じく省吾で、妻の房子と生まれたばかりの愛娘・桃子と、それにまつわる話ということで、「半夏」の後日談的な内容となっています。
ある日の夕方、省吾は桃子を抱いた妻の房子が束髪を乱し、青白い顔をして力なく座っているのを見かけました。ひどい腹痛を訴える妻から桃子を預かり、妻を休ませたり医者を呼びに行かせたりなどしているうちに、ふと、過日に近所であった伝染病の騒ぎを思い出しました。省吾は妻の腹痛の原因が判明するまでは、妻が桃子に乳を与えるのを許しませんでした。
そうなると困るのは、お腹がすいて泣く桃子の存在でした。乳の代わりに薄めた牛乳を与えようにも嫌がり泣き止まない桃子。少し成長し、あやすと愛らしい笑顔を見せるようになった桃子。何をしても泣き止まない桃子を抱きながら悶々とする省吾。しかし、二十分もすると桃子は泣きつかれて寝入ってしまいました。夜中に桃子が起きたときの事を考え、枕元に考え付くだけの品々を並べて、省吾は初めて桃子を抱いて就寝します。桃子が身動きをして目を覚ました省吾が次に目を覚ましたとき、桃子は眠りながら笑みを浮かべていました。
先月号で紹介した「半夏」という作品では、盛助自身が初めて体験した「第一子誕生」という出来事に大きく影響されて生み出された作品ではないか、との推察をしました。今回の作品も文章中に具体的な感情表現があるわけではないのですが、盛助が実際に体験したことであったのかと思わずにはいられないほど、省吾の気持ちの変化や様子がよくわかるものとなっています。
「盛助の子育て」を垣間見たような気持ちになる作品です。