前回紹介した『白布』は小説でしたが、その後、苳三の作品は随筆のような文章に変わり、短いものになっていきます。
大正二年一月二十六日の読売新聞朝刊の「日曜附録」というコーナーに、苳三の作品を見つけることができます。タイトルは『噴煙』とあり、副題として「平野小品の内(一)」と記されています。平野は文章中のルビから「へいや」と読むと思われます。そして小品とは、「ちょっとした品」という意味ですが、この場合は文章なので「短い文」とか「ちょっとした事柄を書きしるした文」という意味になります。後に三作品が続くことから、「平野にちなんだ短い文章の作品」という意味になるでしょう。
『噴煙』は、長野県と群馬県の境にある浅間山の噴煙をテーマにした内容です。主人公は一人称の「私」で表現されています。
作品の冒頭、日頃「私」が野道から見ている浅間山とその噴煙の見え方のいろいろを、細かい描写で記しています。そしてある日、実際にU市を訪れ、ある会社の一室にいたときに、窓の外に暗い、重苦しい雲が次第に立ちひろがっていくのを見ます。どんよりと曇った外に、霧とも細かい雨とも見間違うようなものが降り注ぎ、それが火山灰であることに気が付いた私は、浅間山が噴火していることに思い当たるのでした。一時間ばかりで降灰は収まり、私は夜にU市を去ります。二三日の後、いつものように野道から浅間山を見ると、山は雪に覆われて煙をみることは出来なかったのでした。
盛助は、明治四十四年九月から、私立下野中学校(以下、下野中とします。)の教諭となります。現在の作新学院高等学校です。下野中は宇都宮市にありました。また、当時、浅間山が頻繁に噴火し噴煙を上げていたことが記録に残されています。
こうしたことなどから着想を得た作品ではないかと想像されます。