今から約2年前の6月に、郷土資料館を訪ねてくださった方々がいました。
旧川越中学校(現在の埼玉県立川越高等学校)での盛助氏晩年の教え子の皆さんで、まさに戦後の学制改革により旧制中学校が高等学校になった頃に卒業をされました。資料館の常設展示室に作られた「郷土の偉人 島村盛助」コーナーなどをご見学いただいた後、いろいろと思い出話をおうかがいさせていただきました。
盛助氏の授業風景の思い出として、
「英語にはリズムがある。そのリズムがあるというところがとても面白いと思った。英語に興味を持たせていただいた。」
「授業中、片手に教科書を、そしてもう片方の手と足とでリズムを取りながら、先生がとても美しい発音で読み上げていかれる様子に感動すら覚えた。目に焼きついている。」
と、お話しされていました。
また、英語を訳すということについては、
「授業のテキストを訳すときは、(文章の)頭から訳していきなさい。翻訳ではないのだから。」
と、先生に言われたお話や、
「conceived in libertyという言葉の訳について、今は『自由でうちたてられ』とか『自由のうちに着想され』のように訳すが、先生は、『自由を身ごもって生まれてきた。』と訳された。すごいと思った。」
といったお話をお聞きすることができました。
そして、辞書編さん時の思い出話として
「ウェイクフィールドの牧師という詩の授業のときに、『○○親等』と訳されるremoveという単語の説明があり、岩波の英和辞典にもこの詩を引用して説明を書いた話をされた。その編さんのときに、even to the fortieth remove,all remembered their affinityの部分を引用したが、本来であればtheirとすべき部分をthisとしてしまった。そして辞書にはそのままでずっと掲載され続けてしまった。」
というミスがあったことや、
「田中菊雄氏からjustifyという単語の訳として『正当化する』という言葉を提案されたときに大変憤慨した、とおっしゃった。なぜならjustifyとは、正しいもの(こと)を明らかにするという意味だから。『正当化する』という言葉は、まちがっていたり正しくないことを言い繕うことを意味するから、justifyの訳語として『正当化する』という言葉を当てるのは心外だ、とおっしゃっていた。実際、岩波の辞典では、justifyの訳語として『正当化する』とは載っていなかった。」
といったような、英単語の訳語に対する正確さを求めたこだわりをうかがわせる、そのような話がありました。そして、
「学校の改革により中学校が高等学校となってしまった。自分としては何か中途半端な感じがして悩んでいたときに、心の中に柱というか一本の道筋を作ってくださったのが島村先生であった。先生は『お前たちは心の中に何があるか。その何かを見つけてみなさい。それを伸ばしていくのが人生だよ。』と言ってくださった。戦争に負け、物の価値観が崩れ、心も崩れてしまったかに思えたときに、先生がこの言葉をくださったことが本当にうれしかった。」
「How to liveとは、存在するものは総て正しい。あるがままを見る。それが何かをしっかり考えることだ、とも言われた。」
「中学校(高等学校)の卒業自体はうれしかったが、もうこれで先生の授業を聞けなくなるのだなぁと思うと、それだけは本当に残念であった。」
ともお話されました。
それぞれの人生において「島村先生」が与えた影響の大きさや、先生に対する思いの深さがうかがえました。
遠方より資料館までお越しいただき、お話までおうかがいでき、とても貴重な時間を過ごすことができました。