解題・説明
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【判型】半紙本5巻5冊。 【作者】中村三近子(絅錦斎・平五・平吾)作・書・画。 【年代等】享保14年(1729)9月序。享保14年9月刊。[京都]柳屋庄兵衛ほか板。 【概要】分類「往来物(消息科)」。士農工商の職分別の消息例文と類語集(類字縁字)を集録した独特な用文章。収録書状のあらましは、「士之部上」が「御書御請文章」以下13通と「正月之部」「禁裏その他」「武具」の類字縁字、「士之部下」が「寒気伺御機嫌状」以下26通と月・日の異名、「御庁」「郷村」「神社仏閣」「馬駅」「盗賊」その他の類字縁字、「農之部」は「農業為楽文章」以下20通(うち2通は「税帳」と「宗旨帳面」の書式)と種々の類字縁字、また、「工之部」は「烏帽子折之文」以下23通と「有職」「禁裏年中行事」その他職種毎の類字縁字および「諸職名寄」、さらに「商之部」は「呉服所文章」以下19通と「呉服」「魚鳥」「道具類」等の類字縁字等である。総じて、膨大な用語集をちりばめた用文章で、さらに、語彙の豊富さのみならず、任意の語句には割注や説明文を補足する点も、中村三近子の往来物の特色を如実に示す。なお、各巻巻頭に三近子自画の四民の図と教訓文を掲げる。 【備考】本書は初板本。なお、中村三近子作、享保15年刊『一代書用筆林宝鑑』頭書中(第40丁ウ)に「予、『一代書用』と『四民往来』の文書同時に筆作し…」とあるため、両者ともに享保14年の成稿と考えられるが、『四民往来』享保20年再板本には、その抄録である『文通書用字便蔵』との共通部分に2種類の丁付が初めから施されており、『文通書用字便蔵』の同時刊行が計画されていたことを示す。すなわち、『四民往来』の享保14年板(初板本)が刊行されると、まもなく『字便蔵』用に丁付等の改刻(その際に序題・目録題等を『倭国通用書翰箱』と改刻)と増補を行い、享保20年に『四民往来』(再刊)と『字便蔵』を同時に刊行するに至った。いずれにしても、同時並行的に同ジャンルの往来物を編集し、また、刊行後も部分的に体裁を改めたり、書名を改めたりするなどして新鮮味を醸し出しつつ多彩な出版が行われていた様子を物語る。(小泉吉永 記)
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