解題・説明
|
【判型】大本1冊。 【作者】堀流水軒(観中・直陳)作・書。 【年代等】元禄7年(1694)5月刊。[大阪]高屋平右衛門(高谷平右衛門・棣鄂堂)板。 【概要】分類「往来物(産業科)」。「凡、商売持扱文字、員数、取遣之日記、証文、注文、請取、質入、算用帳、目録、仕切之覚也…」で始まり「…恐天道之働輩者、終富貴繁昌、子孫栄花之瑞相也。倍々利潤無疑。仍如件」と結ぶ文章で、商業活動に関する(1)商取引の記録文字等、(2)貨幣名、(3)商品、(4)商人生活の心得の4分野について記した往来。特に(3)商品が占める紙幅が大きく、しかもその殆どを類別の商品名(語彙)の形で掲げるのが特徴。その内訳は、被服73語、食品・食物23語、家財・家具・雑具70語、薬種・香料45語、武具38語、動物(主として魚介)43語、その他4語となり、合計296語を収録。日常に必要な商品名を列挙するため、結果としてこの分野は生活関係語彙集としての役割も果たしたと思われる。最後の商人心得は、勤勉・正直・節倹の諸徳に重点を置いて諭しており、商人のみならず四民に通ずる教訓となっている。こうした内容上の特徴から、本往来は都市ばかりでなく農山漁村の子弟にも使われ、江戸後期より明治前期にかけて、数百版を重ねたほか、幾多の類書や亜流書を生むなど、著しい流布を遂げた。なお、初板本は本文を大字・4行・付訓で記し、巻末に「此一巻筆徒わらはべの便にと書あつめしなり。堀氏流水軒(直陳)」の識語を付す。 【備考】ちなみに、元禄年間の刊記を持つものとして、元禄7年・高屋板(本館・小泉蔵)、元禄7年・武蔵板(小泉蔵*高屋板とは異板)、元禄8年・大野木市兵衛板(小泉ほか蔵)、元禄8年・勝村治右衛門後印(酒田市立光丘図書館ほか蔵)があり、いずれも首題下部に「堀流水軒筆」と記す。このほか、無刊年本など堀氏揮毫の『商売往来』数種が確認されている。(小泉吉永 記)
|