はじめに

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 「里山」が脚光を浴びて久しい。
 「里山」とは、この地域の農家が「ヤマ」と呼んでいた場所である。本来は、農家が堆肥にする落ち葉を集め、生活のための薪を得る人里に近い雑木林を指していたが、現在は身近な雑木林や社寺林、そして、その周囲に拡がる農地や河川など、人の生活圏にあって半自然的な環境が残されたエリア全体を指す場合が多い。
 里山は化学肥料や石油等の燃料の普及により、高度成長期以降、一時は人々の生活を支える役割を終えたかのように思われ、真っ先に開発の対象となった。しかし、洪水調節や水質浄化、ヒートアイランド現象の抑制などの環境調節機能、歴史・文化的側面、レクリエーションでの利用など、里山が持つ多面的機能が評価され、今ではブームと思えるほど「里山」が各方面で取り上げられている。とりわけ、身近な自然とのふれあいを求めて、ここ数年は年を経るごとに里山を訪れる人が増えている。
 ここに取り上げ報告する狭山丘陵は、かつての農家にとっては必要不可欠の存在であった。現在でも、身近な自然とのふれあいの場所という点においては、地域住民にとって紛れもない「里山」である。瑞穂町をはじめ、狭山丘陵にかかる市や町にとっては、かけがえのない自然の拠り所といえよう。このような地域の期待もあり、都市化という開発の波に洗われながらも公園等で残された場所も多く、驚くほど多様な武蔵野の動植物を温存してきた。記録されているものだけでも4,000種近くにもおよぶ生物群を筆者の力量では到底紹介しきれないが、既存文献を頼りとしてここに報告することとした。まとめに当たっては、なるべく近年の情報も集め、狭山丘陵の自然の現状を伝えるよう努力した。
 なお、ここで扱った動植物は、狭山丘陵とその周辺2km程度に生息記録のあるものとしている。