Ⅰ 自然環境に関する既存文献・資料

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 狭山丘陵に生息する動植物の全体像を把握するため、自然環境に関する既存文献を収集し整理した(表-1)。
表-1 狭山丘陵の自然環境に関する主な文献・資料
文 献 名発表年地形
地質
植物動物執筆者・発行元
植生植物相哺乳類鳥類両生
爬虫類
魚類昆虫類
関東ローム1965年関東ローム研究グループ
狭山丘陵の地形と地質1966年藤本治義・羽鳥謙三
狭山丘陵の植物1967年東京薬科大学植物研究部
多摩湖・狭山湖におけるチョウ類の分布1970年松丸政雄
狭山丘陵・狭山湖・多摩湖の鳥1971年荻野豊
東京の自然史1979年貝塚爽平・紀伊國屋書店
狭山丘陵の鳥1980年荻野豊・さきたま出版会
狭山丘陵所沢市三ヶ島地区における野鳥生息実態調査報告書1981年(財)日本野鳥の会埼玉県支部
東京の地質をめぐって1982年大森昌衛
早稲田大学所沢校地環境影響評価報告書1983年早稲田大学
入間地方の野鳥1983年入間野鳥の会
狭山の森から/狭山丘陵の環境1984年荻野豊
寄せ蛾記増補第2号/所沢市三ヶ島の昆虫類調査報告1984年埼玉昆虫談話会
雑木林博物館構想1986年狭山丘陵を市民の森にする会他
県立自然公間保全活用計画策定基礎調査―県立狭山自然公園1986年埼玉県
所沢校地周辺の鳥類調査報告1986年早稲田大学
所沢校地お伊勢山周辺の毎木調査表1986年早稲田大学
所沢市の植生1987年所沢市
所沢市の鳥相1987年所沢市・(財)埼玉県野鳥の会
入間市の野鳥1987年入間市・柳澤紀夫
所沢キャンパス周辺の鳥たち1987年大堀聰・早稲田大学
埼玉県所沢市三ヶ島・早大キャンパス一帯の哺乳動物生息調査報告1987年大島康行・平田久・早稲田大学
御伊勢山運動公園(仮称)計画地および周辺地域動・植物生態調査報告書1987年瑞穂自然科学同好会・瑞穂町
とりみにすと'86 八国山・鳩峰における野鳥生息調査報告書1987年八国山鳥見人倶楽部
緑の森博物館環境等調査報告書1988年埼玉県・(財)埼玉県野鳥の会
狭山の森から Vol.21988年オオタカ密猟対策委員会・永石文明・柴田佳秀
水道局配水池計画による金堀沢の水生生物への環境影響調査検討報告書1988年西多摩郡瑞穂町石畑地区内水道局配水池建設計画に係る環境影響調査検討委員会
東京都立狭山丘陵自然公園学術調査報告書1988年東京都
瑞穂町動・植物リスト1988年瑞穂自然科学同好会
狭山丘陵動植物調査報告書1989年東京都立武蔵村山高等学校生物部
狭山丘陵の動物紳士録1989年荻野豊・狭山丘陵を市民の森にする会
狭山丘陵の小さな仲間たち1989年市川和夫・牧林功・狭山丘陵を市民の森にする会
所沢キャンパス周辺の現存植生1989年坂巻義章
B地区周辺の植生1989年坂巻義章
早稲田大学所沢キャンパス昆虫類調査中間報告書1989年早稲田大学・筑波大学
早稲田大学所沢キャンパス鳥類調査報告書1989年早稲田大学
早稲田大学所沢キャンパス保全緑地内立木調査1989年早稲田大学
日本の生物第4巻第4号1990年廣井敏男他5名
早稲田大学所沢キャンパス鳥類調査報告書1990年早稲田大学
仮称三ヶ島堀之内公園予定地内自然環境調査報告書1991年所沢市
八国山緑地自然環境調査委託報告書1991年東京都
狭山丘陵四季物語1991年狭山丘陵を市民の森にする会
金堀沢水生生物生息調査報告書1992年東京都水道局多摩水道対策本部
狭山丘陵における送電鉄塔建替工事環境影響調査報告書1993年東京電力
狭山緑地生態管理基礎調査報告書1993年東大和市
狭山緑地雑木林管理基礎調査報告書1994年東大和市教育委員会
鳥・みずほ 瑞穂町の野鳥ガイドブック1994年瑞穂自然科学同好会・瑞穂町教育委員会
平成5年度所沢市自然環境調査報告書1994年所沢市
早稲田大学所沢校地夜間照明施設に係る環境影響調査報告1994年(財)政策科学研究所・早稲田大学
市民がしらべたひがしむらやまの野鳥/東村山市野鳥実態調査報告書1995年「市の鳥」制定委員会
日本鳥類標識協会誌10(2)/越冬期の狭山丘陵における鳥類標識調査1995年一ノ瀬友博・永石文明・日本鳥類標識協会
狭山丘陵いきものふれあいの里・自然環境調査報告書1995年埼玉県環境部自然保護課
入間市鳥類分布調査報告書1995年柳澤紀夫・入間市みどりの課
東大和公園自然環境調査報告書1995年東京都建設局西部公園緑地事務所
狭山緑地自然環境調査報告番1995年東大和市教育委員会
平成6年度中小河川環境実態調査報告書残堀川編1996年東京都環境保全局
入間市の野鳥1996年柳澤紀夫
狭山丘陵(三ヶ島地区)タカ類渡り調査報告書1997年秋1997年日本野鳥の会奥多摩支部
村山・山口貯水池耐震性強化に伴う土質等調査 自然環境調査報告書1997年応用地質株式会社
山口貯水池堤体強化に伴う環境影響調査 動植物等調査報告書1997年東京都水道局
八高線車両基地(仮称)自然環境調査報告書1997年東日本旅客鉄道株式会社
野山北・六道山公園自然環境調査報告書1997年(株)愛植物設計事務所・東京都建設局西部公園緑地事務所
タカの渡り・狭山丘陵六道山公園での調査記録1997年・秋1998年黒田美好
野山北・六道山公園自然環境調査報告書1998年(株)緑生研究所・東京都建設局西部公園緑地事務所
さいたま緑の森博物館環境調査報告書1998年埼玉県環境生活部自然保護課
狭山丘陵自然環境調査1998年埼玉県
東村山市史3資料編自然第Ⅲ章 動物/東村山市の鳥類1998年永石文明・竹内大介
タカの渡り・狭山丘陵六道山公園での調査記録1998年・秋1999年黒田美好
野山北・六道山公園自然環境調査報告書1999年技研システム株式会社・東京都建設局西部公園緑地事務所
武蔵村山市市資料編 自然=植物・キノコ・動物=里山の輝き1999年武蔵村山市
都立公園における野鳥他の確認記録1998.4~1999.32000年宮崎豊
都立公園における野鳥他の確認記録・追補1998.4~1999.32000年宮崎豊
タカの渡り・狭山丘陵六道山公園での調査記録1999年・春2000年黒田美好
タカの渡り・狭山丘陵六道山公園での調査記録1999年・秋2000年黒田美好
里山におけるエコミュージアムの実現に関する調査研究報告書2000年(財)トトロのふるさと財団
野山北・六道山公園自然環境調査(その2)報告書2000年(財)トトロのふるさと財団・東京都建設局西部公園緑地事務所
東京都の生きもの2001年東京都生物教育研究会
自然環境調査報告書1998年2001年(財)トトロのふるさと財団調査委員会
里山におけるエコミュージアムの実現に関する調在研究報告書(PartⅡ)2001年(財)トトロのふるさと財団
ガイドブック・大森調節池の生き物たち2001年大森の池ファンクラブ・埼玉県生態系保護協会
野山北・六道山公園自然環境調査(その2)報告書2001年(財)トトロのふるさと財団・東京都建設局西部公園緑地事務所
入間市の野鳥―追加記録―2002年柳澤紀夫・入間市
瑞穂の自然/瑞穂町動植物リスト2002年瑞穂自然科学同好会
野山北・六道山公園自然環境調査(その2)報告書2002年(財)トトロのふるさと財団・東京都建設局西部公園緑地事務所
八高線車両基地(仮称)オオタカ調査5 平成14年調査結果報告書2003年株式会社オオバ・東日本旅客鉄道株式会社
八高線車両基地(仮称)オオタカ調査5 平成14年調査結果報告書 資料編2003年株式会社オオバ・東日本旅客鉄道株式会社
瑞穂町郷土資料館年報第2号平成14年度/瑞穂町動植物リスト(増補版)2003年瑞穂自然科学同好会・瑞穂町教育委員会
自然環境および石造文化財調査報告書(第2集)2003年(財)トトロのふるさと財団調査委員会
里山の生物多様性保全方策の検討2003年(財)トトロのふるさと財団
野山北・六道山公園自然環境調査報告書2003年(財)トトロのふるさと財団・東京都建設局西部公園緑地事務所
狭山丘陵とその周辺ハンドブック/瑞穂町動植物リスト・三訂版他2004年瑞穂自然科学同好会・瑞穂町教育委員会
瑞穂町郷土資料館調査報告 蝶編2004年村野隆夫・瑞穂町郷土資料館
自然環境調査報告書(第3集)2004年(財)トトロのふるさと財団調査委員会
里山の生物多様性保全方策の検討〈Ⅱ〉2004年(財)トトロのふるさと財団
野山北・六道山公園自然環境調査報告書2004年(財)トトロのふるさと財団・東京都建設局西部公園緑地事務所
自然環境調査報告書(第4集)2005年(財)トトロのふるさと財団調査委員会
入間市鳥類分布調査報告書2005年柳澤紀夫・入間市みどりの課
狭山丘陵における里山保全の提言2006年(財)トトロのふるさと財団
自然環境調査報告書(第5集)2006年(財)トトロのふるさと財団調査委員会
文献数合計99点836474170422850
埼玉県環境部自然保護課(1995)に加筆

 狭山丘陵の自然環境に関する文献は1960年代中頃から散見され始め、1970年代までは数点だったものが、1980年代に入ると報告書の数が大幅に増えた。狭山丘陵の自然に関する調査は、はじめ一部の研究者や愛好家だけが行っていたが、1980年代に入ると開発に対する反対運動や自然保護活動が盛んになり、研究者や自然保護団体による調査報告書、その後教育機関や行政による各種調査も活発に行われるようになった。また、開発事業に伴う環境影響評価調査(環境アセスメント調査)が行われ始めたのもこの頃である。そして狭山丘陵の自然環境の重要性が広く認識されると共に、近年は丘陵内の公園整備や管理の一環として、地域毎の調査が各所で進められるようになった。また、1990年代までは生息種の確認調査が主体であったが、2000年代に入る頃からは生態学的な調査も行われている。
 以下に狭山丘陵の自然環境に関した初期の重要な資料といえる4点の文献をあげる。これらの文献によって、狭山丘陵の植物(シダ植物・種子植物)および脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類)と無脊椎動物の一部(昆虫類)は、生息種がほぼ把握されている。
 1) 『狭山丘陵の植物』東京薬科大学植物研究部(1967)
東京薬科大学植物研究部が狭山丘陵全域を対象に1962年~1967年にかけて90回におよぶ現地調査を実施し、それまでの文献記録を含め、計987種のシダ植物と種子植物の目録を掲載している。現在では確認できなくなった植物も多く記載されており、今ほどの開発や人為的影響がおよぶ前の丘陵を知ることができる。
 2) 『狭山丘陵の鳥』荻野豊(1980)
地元の荻野豊による1965年~1979年までの15年間の狭山丘陵の野鳥観察記録の集大成。氏自身の調査記録を中心に狭山丘陵に生息する野鳥18目39科176種を掲載し、各種の出現期間やコメント等も掲載している。氏はその後も記録の整理を続け、1986年の『雑木林博物館構想」では18目43科202種を記載している。
 3) 『寄せ蛾記増補第2号・所沢三ヶ島の昆虫類調査報告」埼玉昆虫談話会(1984)
所沢市三ヶ島に早稲田大学の進出計画がおこり、建設予定地の昆虫相に注目した埼玉昆虫談話会が実施した緊急調査をまとめた報告書である。調査は1983年5月~10月と1984年4月で14日間、延べ68人が参加。この報告書ではチョウ類56種、ガ類262種、コウチュウ類83種、トンボ類12種、その他の昆虫31種を記載。これを契機に会員による追加の新記録が発表され、丘陵の昆虫目録が充実した。
 4) 『狭山丘陵動植物調査報告書』東京都立武蔵村山高等学校生物部(1989)
地元の高校生物部が1979年から狭山丘陵の生物相全体の広い分野について調査に取り組み、毎年確認種目録を整理してきた。本報告書は、その1979年~1988年までの10年間の記録を集大成したもので、菌類131種、植物619種、哺乳類11種、鳥類130種、爬虫類10種、両生類10種、魚類22種、クモ類112種、昆虫類1,025種を記載し、狭山丘陵の生物相解明に大きな役割を果たした。昆虫類に関しても他の報告に比べ、非常に広範囲な分野が集録されている。

 以上の4点に加え、埼玉県環境部自然保護課は『狭山丘陵いきものふれあいの里・自然環境調査報告書』(1995)において、それまでの狭山丘陵の自然環境に関した主要文献・資料46点を収集し、狭山丘陵産動植物目録を取りまとめている。また、『日本の絶滅のおそれのある野生生物 無脊椎動物編』・『日本の絶滅のおそれのある野生生物 脊椎動物編』(1991)等を用いて、狭山丘陵で保護が求められる希少種等の選定を行っており、狭山丘陵の動植物相全体を網羅した資料となっている。
 今回の狭山丘陵に生息・生育する動植物の紹介にあたっては、まずこの埼玉県環境部自然保護課の報告を基に、その後公表された狭山丘陵の自然環境に関する文献・資料を加え、表-1に示した99点のリストを作成した。それを参考になるべく狭山丘陵の現状を紹介できるよう努力した。調査した99点の文献・資料を自然環境の分野別に見ると、地形・地質等に関するもの8点、植物に関するもの59点、動物に関するもの85点となり、動物類に関連した文献・資料が最も多かった。動物類の中では、鳥類に関するものが70点と最も多く、次いで昆虫類の50点となり、哺乳類・両生爬虫類の文献・資料数は約40点でほぼ同程度だった。魚類に関するものは少なく28点であった。その他、高等植物以外の植物や昆虫以外の無脊椎動物について調査した資料は付随的なものしかなく、全体を把握できるものは見られなかった。これらの分野を対象とした調査は今後に期待したい。

クヌギとコナラのドングリと葉