このようなことから、狭山丘陵では照葉樹林帯(常緑広葉樹林帯)と夏緑林帯(落葉広葉樹林帯)に生育の本拠をおく植物の両方が見られるのが特徴である。照葉樹林帯に分布の中心をもつとされる植物:暖帯要素には、例えば次の種などがある。
木本 : | シラカシ、ウラジロガシ、アラカシ、シロダモ、ヤブツバキ、サカキ、ヒサカキ、アセビ、ツルグミ、イタビカズラ、キヅタなど |
草本・シダ(矮性低木を含む) : | フユイチゴ、カラタチバナ、ミズスギ、ウラジロ、ホシダ、クチナシグサ、クララ、ネコハギなど |
このような暖帯要素は現在の丘陵にも多く見られ、この丘陵の植生が照葉樹林帯に属していることを表している。以上の内、ウラジロガシ、カラタチバナ、イタビカズラ、ミズスギ、ウラジロなどはこの丘陵では稀産種に属する。特にミズスギ、ウラジロなどの暖地性シダの分布は注目に値する。逆に、シラカシ、シロダモ、ヒサカキなどは、管理が放棄され、ある程度進んだ遷移段階にある二次林の亜高木層、低木層に目立って出現している。
この丘陵を特徴づけるもう一つは夏緑林帯に分布の中心をもつとされる植物:温帯要素に属するものである。例えば次の種などがある。
木本: | イヌシデ、オニグルミ、ヒメヤシャブシ、ホオノキ、レンゲツツジ、ミヤマガマズミなど |
草本・シダ: | オシダ、ナライシダ、ミヤマクマワラビ、マンネンスギ、ヒメザゼンソウ、オオヤマフスマ、アカバナ、サワギキョウなど |
この内、ヒメザゼンソウは日本海側に多く見られる種とされている。また、かつての武蔵野の雑木林ならどこにでも見られたが今では希少になってしまったカタクリやシュンランなどが、まだ見られるのもこの丘陵ならではといえよう。
*暖かさの指数:各月の平均気温から5℃を引いた年間の合計値。単位は、月・℃
亜熱帯多雨林帯:180-240月・℃(以下、単位略)、照葉樹林帯:85-180、夏緑林帯:(45~55)-85、常緑針葉樹林帯:15-(45~55)となっている。