1 在来種

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 ホンドギツネについては1960年代後半から1970年代前半に狭山丘陵で絶滅したことが報告されている(小原秀雄1982)が、丘陵の自然環境の成熟化に伴い、他所からの移動によって再び生息し始めたものと考えられる。1980年代中頃より死体の発見や目撃例が相次ぎ、筆者も所沢市三ヶ島付近の道路(青梅~所沢線)を横断する姿を見ている。入間市宮寺地区の丘陵内で1987年(埼玉県1988)と1992年(東京電力1993)に本種の繁殖用巣穴の確認記録もある。また、1992年、94年、95年に子ギツネを含む親子も観察されており、稀に交通事故による死体も発見されている。現在も個体数は少ないが安定して生息しているものと推察される。
 ホンドタヌキは餌付け等によって人家付近に出没することが多いためか、交通事故による死体の発見も稀ではない。狭山丘陵の中型獣の中では一番個体数が多いと思われる。人家の床下や土管の中で繁殖したという例もある。
 狭山丘陵のノウサギは、冬でも毛が白くならないキュウシュウノウサギ(亜種名)であるが、雪の降った後の地面を観察するとその特徴的な足跡によりノウサギの生息を確認できる。イタチとノウサギは減少傾向にあるためか、丘陵内およびその周囲でしか見られなくなっている。
 『狭山丘陵いきものふれあいの里・自然環境調査報告書』(1995)で報告された14種の他に、狭山丘陵において未確認であった哺乳類としてモグラ科のヒミズ((財)トトロのふるさと財団2000)とコウモリ類のヤマコウモリ(埼玉県環境生活部1998)が記録されている。ヒミズは、平野部の樹林地等にも少なからず生息している食虫類である。また、コウモリ類についてもアブラコウモリよりも一回り大きい種の飛翔が丘陵内で目撃されており、バットディテクター(小コウモリ類が発する超音波パルスによって種を識別する機械)によってヤマコウモリと確認されたものである。
 このほか今回はニホンザル、アナグマ、ホンドジカの情報が得られた。ニホンザル(1999年8月瑞穂町長岡、2000年5月瑞穂町高根)とホンドジカ(2006年4月22日瑞穂町箱根ケ崎)は、いずれも丘陵の周囲で記録されたもので、奥多摩等から耕作地や市街地を抜けて移動してきた特殊な例と考えられる。アナグマは多摩湖を周遊する自転車道路で死体が発見(2003年6月19日武蔵村山市)されたもので、初めての記録と思われる。しかし、アナグマが狭山丘陵に定着しているのかは定かでない。いずれもごく稀な記録であるが、アナグマなどはこのような事例の積み重ねを経て、一時期狭山丘陵から絶滅したといわれるキツネが復活したように、今後狭山丘陵に定着する可能性もある。
 狭山丘陵の北方5km程に位置し、西方の山地に連続する加治丘陵では、中型哺乳類としてアナグマ、テン、ムササビ、ニホンリスの4種の生息が確認(入間市加治丘陵自然環境調査研究会1990)されている。狭山丘陵と低山地や他の丘陵と比較した場合、狭山丘陵にこれら森林性中型哺乳類4種の定着が確実でない点は、山地と連続していないことで低山性の哺乳類の種の供給がされにくいためと考えられる。これは独立丘陵である狭山丘陵の特徴といえよう。