チャイロスズメバチの記録は本州の日本海側に多いが、生息地域は限られており、数も少ないということで、それまで狭山丘陵をはじめ、瑞穂町において記録されることはなかった。
巣が造られた場所は六道山公園展望塔の最上階東側の梁の部分である。西側に造られていたキイロスズメバチの巣を駆除後、数日して、新たに東側に巣が造られているのに気付いたというのが経緯である。
展望塔につくられたチャイロスズメバチの巣
文献によるとチャイロスズメバチの女王バチは、キイロスズメバチかモンスズメバチの、働きバチが羽化して間もない若い巣に侵入し、その巣の主である女王バチを殺して巣を乗っ取る習性があるという。女王バチは産卵に専念し、乗っ取った巣の働きバチに巣造りをさせ、生まれてくる自分の幼虫の世話もさせる。しばらくは両種が一緒に幼虫を育てる期間があるが、乗っ取った巣の働きバチはやがて死に絶える。
働きバチの寿命は2週間程度らしいので、乗っ取られた側の働きバチがこの時は生存している可能性も残っていたが、この巣ではチャイロスズメバチの働きバチが巣造りと幼虫の世話をしており、他の種類のスズメバチを確認することはできなかった。
昼間、キイロスズメバチの巣を駆除した場合、巣外で活動している働きバチは生き残り、新たに巣を造り始めるため、1週間程で巣の大きさはソフトボール以上になってしまう場合がある。
以上のことから推察すると今回の場合、一度駆除された時に生き残ったキイロスズメバチの働きバチが東側に巣を造り始めたところを、チャイロスズメバチが乗っ取ったと考えるのが妥当と思われる。駆除され女王バチを失ったキイロスズメバチの巣からは、新たに産まれてくる働きバチはなく、チャイロスズメバチの幼虫を育て上げ、この巣のキイロスズメバチは死に絶えてしまったということなのではないだろうか。
この他、チャイロスズメバチに関して、2005年7月23日、高根山のクヌギの樹液に数匹のチャイロスズメバチが飛来しているという情報と写真提供があった。情報を受けて確認した際に、数匹のオオスズメバチと共に2匹のチャイロスズメバチを確認した。樹液には飛来できなかったが、飛び去る方向が六道山公園とは反対の方向だったことから、他にも巣があるものと思われる。
この情報以外に、狭山丘陵の武蔵村山市域でチャイロスズメバチを見たという話も聞いており、徐々に確認数が増加しつつある。
最新の情報としては2006年8月22日、みずほエコパークにある雑草集積所に造巣したという報告があり、巣の出入り口だけでも10匹以上のチャイロスズメバチが確認できている。
丘陵地のみならず市街地にも進出する可能性は大きく、既に市街地に進出している他のスズメバチへの影響と共に、今後、どのように勢力を拡大していくのか、或いは既存のスズメバチの反撃を受けるのか等、その動向が注目される。