ザクザクおばば

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むかしむかし石畑村に鷹丸、亀丸という兄弟がいました。
兄の鷹丸は こうきしんおうせいで、弟の亀丸はおくびょうでしたが、とてもなかのいい兄弟でした。
もうすぐ毘沙講のよみやで火まつりの日です。
火まつりは、まきをもやして無病息災や家内安全をいのるおまつりです。
たくさんのごちそうがふるまわれるので、鷹丸も亀丸もずっと前からたのしみにしています。
 
鷹「もうすぐ毘沙講だな」
亀「おら、ごちそううんとたべたいな。」
 
火まつりでつかうまきをあつめるため、鷹丸と亀丸はきんじょの子どもたちといっしょに のうかをまわることにしました。
 
鷹「毘沙講でもす、カヤをくらっしぇー。」
亀「毘沙講でもす、バヤをくらっしぇー。」
 
あつめたまきを御嶽神社にもっていくと、兄貴ぶんの権太がふたりをまっていました。
 
権「これだけじゃまきがたりないぞ。
  たくさんあつめれば おだちんがもらえるから、山へとりにいこう。」
 
鷹丸と亀丸は、おだちんにつられて大日山までいくことにしました。
大日山にいくとまきひろいをはじめました。
ところがあそびたいさかりの子どもたちばかりです。
すぐにあそぶのにむちゅうになってしまいました。
しばらくあそぶうちに鷹丸は、からすがなきはじめたことに気がつきました。
 
鷹「おーい権太、もうすぐひぐれだぞ。」
 
日がしずむ前に山をおりないとまっくらになってしまいます。
子どもたちはあわててまきをひろうと、山をおりていきました。
里までおりてくるころにはすっかり日がくれてしまいました。
亀丸は鷹丸のきもののすそをぎゅっとにぎりしめます。
さらさらさらさら
川のせせらぎが聞こえてきました。
村ざかいまでおりてきたのです。
もうすぐ鷹丸たちのすむ村です。
そのとき、川のせせらぎにまじってザクザクザクザクという音が聞こえてきました。
 
権「なんの音だろう。」
 
気になった権太は、鷹丸といっしょに音のするほうへいこうとします。
 
亀「鷹丸にいさま、いかないで。」
 
亀丸は鷹丸をけんめいにとめようとします。
鷹丸がいってしまうので、亀丸もしかたなくついていきました。
すると、一人のお婆が川べにしゃがみこんで、ザクザクとなにやらあらっているようです。
 
鷹「あのお婆、こんな時分になにをあらってるんだ?」
権「毘沙講のごちそうのためのあずきじゃないか?」
 
すすきのかげからようすをうかがっていたそのとき。
それまでうつむいていたお婆が顔を上げて立ちあがり、
 
婆「こんな時分まであそんでいるのはどこの子だぁ。
  とってくってしまうぞ。」
 
お婆はみるみるうちに大きくなって、おそろしい顔で上から見下ろしてきます。
びっくりした子どもたちは まきをほうりだし、いちもくさんににげました。
なん日かすると鷹丸も亀丸もお婆に会ったことをすっかりわすれ、いよいよよみやをむかえました。
たいこをたたいてまつりをもりあげます。
そのうちにおなかがすいたので、ごちそうを食べることにしました。
ところが、せきはんを見たとたん、鷹丸と亀丸の顔がまっさおになり、ふるえだしました。
村ざかいの小川で会ったおそろしいお婆を思い出したのです。
そのようすをふしぎに思ったきんじょの子どもたちは、なにがあったのかふたりにたずねました。
鷹丸と亀丸は小川で会ったお婆のことを話しました。
 
子「おそくまであそんでいるから、きつねにばかされたんだ。」
 
ふたりは子どもたちからさんざんにからかわれました。
それからというもの、子どもたちはどんなにあそびにむちゅうになっていても、日がくれる前には家に帰るようになりました。
いつしか、村ざかいの小川はザクザクババア川とよばれるようになりました。
ザクザクババア川は、今でも瑞穂町をひっそりとながれています。