蛇喰い次右衛門

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むかしむかしまだ狭山池が筥の池とよばれていたころのおはなし。
池はいまよりずっとずっと大きく、大雨のたびにあふれてはあたりを水びたしにしていました。
池のはたに次右衛門というわかものがすんでいました。
次右衛門はたいそうな力じまんで、すもうをとったら村じゅうのものがたばになってかかってもかなわないほどでした。
ある夏の日のこと。
 
次「今日は朝からやけるようにあついなぁ。
  こうもあつくちゃ、のらしごともできない。
  いっそのこと筥の池で水あびでもしよう。」
 
そういうとざぶんと池にとびこみました。
 
次「あぁ、つめたくてきもちがいい」
 
ざばりざばり
ざばりざばり
次右衛門は水をかきわけ、池のふかいところまでおよぎました。
すると、小さなへびが一ぴき、どこからともなくあらわれました。
へびは次右衛門をじゃまするようにするりするりと近より、あっというまに次右衛門にからみつきました。
 
次「なんだかきみがわるい、ふりほどいてしまえ。」
 
次右衛門はへびをはなそうとしますが、頭をはなせば尾がからみ、尾をはなせば頭がからみ、なかなかはなすことができません。
それどころか次右衛門の体をぐるぐるとまわりながらあがってきます。
 
次「こりゃあたまらん。」
 
次右衛門はへびをつかむと
ガブッとへびの体にかみつきました。
へびの体からはおびただしいちがほとばしり、あたりはまっかにそまります。
ドーン!
にわかに空はくらくかげり、風がびゅうびゅうとふきすさびます。
ぴかりぴかりといなずまが光ります。
小さかったへびは かかえきれないほど太いだいじゃとなり、次右衛門をしめつけてきます。
だいじゃのシューシューといういきづかいが聞こえてきます。
つぎのしゅんかんだいじゃが大きな口をあけておそってきました。
次右衛門もまけじと力をふりしぼります。
だいじゃの頭にかみつき、りょうてでだいじゃのあごをつかむとバリバリとひきさきました。
だいじゃはようやく次右衛門の体からはなれると、長い体をズルズルひきずりながらにげていきました。
だいじゃがにげていった道すじはまるでくわでほったかのようにえぐられ、そこを血のいろをした水がながれていきました。
水は七日七ばんながれつづけ、池はすっかり小さくなりました。
このながれはそのまま川となり、へびがほった川から蛇堀川と名づけられました。
いまでは残堀川とよばれているおだやかな川には、こんなれきしがあったのですね。