後北條氏すでに亡び、かつて北総の雄と呼ばれた相馬氏をはじめ関八州における北條氏幕下の諸豪族は、これと運命をともにして没落したため、関東一円はことごとく豊臣秀吉の手に帰した。そこで秀吉は北條氏に代わって新たに関東の支配者として徳川家康を選び、北條氏の遺領をすべて家康に与えることになった。そこで家康は同年八月一日、この日を期して関東に入部し、その本拠を江戸城に置くことになった。江戸城は北條氏時代、その部将遠山景政の居城であった。さて、家康は関東に入部して本拠を江戸に構えると、直ちに家臣に対して知行を宛行(あておこな)うことになった。これを知行割といい、徳川氏が領国を支配するための基盤となったものである。
　家康が秀吉より与えられた関東領国は、武蔵、相模、上総、下総、上野の五か国と、それに伊豆一国で、その知行高は実に二四〇万二〇〇〇石にのぼり、更に伊勢、遠江、駿河のうち約一〇万の領地があり、これを合わせれば二五〇万石以上というのが家康の所領であった。そこでこの知行を家臣に宛行うに当たっては、攻城野戦に功労のあった武弁一図の家臣より、むしろ経世時務の才に富んだ者を選ぶべきであると考え、家康は家臣のうちより適任者として伊奈忠次、青山忠成の両人を抜擢(ばってき)して事にあたらせた。その結果、関東領国内に配置された主な家臣は次のとおりである。

　だいたい以上のように家臣を各方面に配置したが、当時、安房には里見氏、常陸太田には佐竹氏、下妻には多賀谷氏、下野宇都宮には宇都宮氏などの戦国時代からの豪族が勢力を張っており、しかもその諸氏はいずれも秀吉の北條氏征伐に協力したのであるから、秀吉もそれらの諸氏には手をつけることができなかったので、家康が家臣を配置するのにも、以上各豪族の存在を充分考慮にいれなければならず、したがってその配置については大いに苦心をしたことだろう。