巻頭言
私は本来史学に携わつて来て居るものではあるが、地方史や郷土史を専攷としたものではない、それにしても郷土人として、歴史ある郷土の過去を語ることは、一つの興味でもあり、同時に郷党の為め、將た一般世間の為めに尽くす義務でもあると信ずる。そんな事から夙に郷土守谷の歴史を討究して、曾って大学在学中にも「守谷志」の一篇をまとめたものであつた、更に最近には、その足らざるを補い、誤れるを正し、「改訂増補守谷志」と題して去る昭和二十年に重ねて刊行して同好に頒った。それは守谷に関する一つの文献として後年に伝えたいという所からしたものであるが為めに、叙述すべてが学究的に偏した傾きがあつた、そこで一般向きのものとしてモット簡易に、読みよいものが欲しいという要望が起つて来た、その要望に添うて中幹たる所だけ六つかしくいえば通史ともいうべき所だけを幾分解り易く書いたものが本書である。隨つて「守谷志」とは当然重複するものではあるが、考証的のことや引用資料の登載などは、すべて之を省いた、煩瑣は少くなったと思う。それでも尚且つ文章が六つかしいと言われるかも知らぬが、それは余りくどくどと長くなるのを避けたからであって、諒承されたい。又詳しい事に亘って知りたいと思われる方は「改訂増補守谷志」を参照されることを望む。
装幀には、畏友奥村土牛君の厚意を煩わした。特記して感謝の意を表する。
昭和三十年新春
齋藤隆三 識