二 守谷在住のものゝ詩歌

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 守谷在佳のものゝ文藻傳ふる所少しとせないが玆には明治初年までのものゝその作例若干を登載するに止むる。
 ○橘の圓人と聞へける敷島の道に遊び玉ひける人神無月の半予が許に來りて天の道を諸人に示しなには津やよしあしおほき世の中にまことの道をおしへ人の心を和らげ正に直なる神の國の風にはひかさんとの志にめで侍りてよめる
齋藤吉高

名も高き松の榮へにあやかりて
     幾千代までも大や仰ぐらん          (安永年間)
          ○
    題 六道
世の中は地ごくの上の花見哉                      一茶
是がまあ地ごくの種か花に鳥             西林寺義風化六庵 鶴老
      餓鬼
花散るや呑たい水は遠霞                        一茶
知らぬ火の春も忽ちくれにけり                     鶴老
      畜生
散花に佛とも法ともしらぬ哉                      一茶
牛馬のねてくふ春の野山哉                       鶴老
      修羅
大聲に花の小脇のはくち哉                       一茶
散花の太刀長刀も飾り哉                        鶴老
      人界
人の世に咲あわせつる櫻哉                       一茶
人々よ花に嵐もうはの空                        鶴老
      天上
霞日やさぞ天人の御退屈                        一茶
永き日とおもふ程猶くれやすし                     鶴老
寢さめ/゛\虫の音をきく宵寢哉                    鶴老
鳥かけのさす水に啼く蛙かな                      鶴老
                                (文化年間)
          ○
      霖雨虫                    斎藤爲昭篤左衞門
袖の露淚も雨にふる郷の
    父はゝ戀し簑蟲の鳴く
      大暑                     若雨齊藤氏爲昭
十人が十色に寢たる暑さ哉
      立秋
立秋のいろか椿の葉のひかり
      平等院
こゝろして啼け時鳥宇治の里
      琵琶湖
是を見て男になりぬ琵琶の湖
小松曳                     數盛一盃亭
齋藤爲昭

小松をはひかす酒のみあとひきて
    野守が宿にねのびしてまし
    櫻もみぢ
散りぬへき櫻もみぢ葉仲々に
    春はいとひし風を待つらん
                           (文化―天保)
          ○
待居たり月半輪のほとゝぎす                      司耕
卯の花にとりわけ露のやとりけり                    〃
          ○
去年來て又來て隅田の衣更                       野英
          ○
猿の子も夢見て居るやはなあふち                    九皐
          ○
衣更してかくれはや淺香山                       太山
          ○
衣紋して膳に向ひし袷かな                       三厚
          ○
    ほとゝぎす                          松人
ほとゝぎす待ちくたびれてまとろめば
     夢路をさそふ遠の一聲
    年の暮
年の内に千金の春迎へては
     暮の仕舞もゆたかなるらん
          ○
      天の川
筑波根のそらにあたりぬ天の風                      寸風
     步行では□□の秋風                       千萩
板□を置けば頻に蟲啼いて                         若雨
     いさよううちの永きむくら戸                  風
地子はかる用意も見えぬ露の頃                      萩
     雨ちかけれど出水さへせぬ                   雨
小車の幷てもとる日くれ方                        風
     ひとり口利く堂の庭掃                     萩
橋立の松形に啼くほとゝぎす                       雨
     あやめの朝の膳にさし向                    風
父はゝにおとろへかくす一笑ひ                      萩
     ならふ厩を順に見廻はる                    雨
寒月の四谷の竹に入りにけり                       風
     手にとるうちにさめる溫石                   萩
ひたすらに無常の起る波のおと                      雨
     妓王が舞のおもかげにたつ                   風
薰物の匂ひすはく花曇                          萩
     芝ほりかへす土のかげろふ                   雨
黄鳥に人の草履をはき替て                        風
     京の女中のおほき溫泉の山                   萩
八専の間日を每日かそへつゝ                       雨
     いつでも寺の馬かりにやる                   風
初老に國の催馬樂覺えけり                        鶴老
     夜寒のさとにふれるうす雲                   雨
呼たてる鳥のふり賣あはれなり                      萩
     我等もはやく世を遁ればや                   雨
吹ちらす陣屋々々の松の風                        萩
     うらめしきまで水に澄む月                   雨
萩の別れ夫の名殘も遠からず                       萩
     手向の幣にもみ散らして                    雨
さむしろに今は集るむら雀                        萩
     山こす虹の時のたつ                      雨
小丁稚の陣屋をさして走り行                       萩
     しつか過ぎたる旅籠屋の晝                   雨
双六の上目に花の散かゝり                        萩
     胡蝶むらがる盃の上                      雨
         文政八己酉於齋藤氏邸
          ○
  五十になりける年の彌生はかり華契多年といふことをよめる長歌幷短歌
                               權大僧都寬山 西林寺
宇那ゐ子の昔おもへば老の身の父におくれつはゝそはの母かねかれて十あまり二の年にみなのわたる黑き髮を剃りこほちうつぶし色の墨染の袖にかぶれとおろかなるにふき心に御佛の道をたをらしはるけみて行きもえやらすうれたきや中空にのみあまた年なすこともなく爲經つゝ五十年のけふとなりにけりいでや今よりますらをの弓末振おこし利心に道をまなはひ法の文みみしあきらめて肝むかふ心をいため玉きしる命を縮めなにかせん馴來しまたて梓弓春さり來れば花くはしさくらをかさしまち酒のをかめをくみておもふとち思ひをやりてもゝとせも醉て通はん花をかざして
 
  反歌
いたずらに過る月日の數のうぢに
     花見て暮す春もありけり
          ○
     殘雪                                               渡邊敏矩
大かたにふれるはきえて槇の葉に
     みるばかりなる今朝の薄雪
          ○
壬子小詩曆                                        鷺月道人長龍寺
寬庭

少々園亭自口奇 黄鶯五六囀花枝 老僧八十猶强健 昨朝梅逢十二時