人口の都市への集中、高層住宅、ニュータウンの建設などが著しい現代では、身近に失われた自然を求めてアウトドア指向が盛んです。しかし、自然の中へ多数の人々が侵入することは、生物への新たな抑圧を生じ、自然環境を破壊し、事故なども起こします。
我々がその様な被害を与えず、安全に楽しむためには、自然との健全な付き合い方を知る必要があります。これはフィールドマナーとも呼ばれています。その一般的なものを次頁以降に列挙、図示しました。
私たちが身近で見ているのは、一般に「里山の自然」と呼ばれる農村地帯が育んだ自然です。ここには昔から住む方たちがおいでで、田畑はもとより森林、草原にも必ず持ち主があります。プライバシーや個人財産の侵害につながる行動は、慎まなければなりません。
最近の外出は車に頼りがち、特に四駆の普及は緑地への侵入を招き、被害が増大しています。斜面への乗り入れは、生物のみでなく歴史的な地形の破壊まで引き起こしました。
健康無害と思われていた自転車も、マウンテンバイクによる破壊が生じています。
また、他人の土地を犬の運動や訓練の場として勝手に使ってもよいとは考えられません。
採るよりも観察し自然を損なわない。大声や騒音は出さない。火の用心。ゴミは必ず持ち帰る。これらは最も基本的なマナーです。
採集は出来るだけ行わず、調査や観察の際は、必要最低量を採取し回覧します。植物はちぎったりすると組織が再生し難くなります。必ず剪定ハサミなどを使用しましょう。
昆虫類の幼虫を探すため、森の中の朽ちた倒木を残さず砕いてしまった採集者が居ました。最悪な例です。
生物写真に興味を持つ人が増えた反面、マナーの悪いカメラマンの行為が目立っています。また、密猟なども行われています。
貴重生物保護の基準として定められたレッドデータブックの内容や、鳥獣保護法などを知っておくことは重要です。違反行為を見かけた際には警察などへ通報すべきです。
確認したことを、すぐ確実に記録することは、ナチュラリストの心得です。希少種植物の存在や猛禽類の繁殖地などを発見したときは、みだりに口外して悪質な採集者や写真撮影、密猟者などに知られると被害を生じます。
情報はその価値を知り的確に対処できる機関や人にのみ伝えましょう。
野外での事故には転倒骨折が多く見られます。負傷で動けず携帯電話で助かった例もあります。歩きやすい服装と靴で、手には物を持たないようにするのが最も安全です。何事も無理をせずに楽しみましょう。
有毒植物は、植物識別の項で説明しました。昆虫では、ハチによる被害が最も目立ちます。攻撃的に近づいてきたら巣が近くにある証拠です。体を低くし静かに退却です。
観察会などの野外行事では、必ず予備調査を行い安全対策を図る必要があります。
【フィールドマナー要項】
1.人家の近くでは、住民のプライバシーを尊重する。
2.無断で田畑や林に入り込み、採集などを行わない。
3.農耕地では農道のみを歩く。
4.みだりに道以外を歩かない。やむをえず歩くときは前の人の踏み跡を。
5.自動車や自転車の運転は慎重に、緑地への乗り入れや駐車は厳禁。
6.マウンテンバイクは植生を踏み砕く道具ではない。
7.ペットはちゃんと抑えておく。
8.他の人やグループのじゃまにならない。
9.訪れた跡は元通りにし、痕跡を残さない。
10.大声や騒音を出さない。
11.ゴミはかならず持ち帰る。
12.火は使わない。やむをえず使った時は確実に後始末する。
13.生命あるものを大切にし、みだりに採集をしない。確認採集は最低必要量だけを。
14.植物サンプルを採取するときは、折り取らずにナイフか剪定ハサミで切りとる。
15.商業的な収益のために採集してはならない。
16.生物を探す際に、その生息場所である可能性のあるところを根こそぎ撹乱しない。
17.巣、卵、子連れの生物などには近づかない。
18.一個所に集中して立ち入らない。
19.野生地域とそこに生息する野生生物に関する国の法律を知っておくこと。
20.希少種などの発見は、保護のための情報として関係部門にのみ連絡する。
21.興味深い発見は、情報価値を理解できる人だけに教える。
22.適切な専門家の助言や同意なしに種を導入したり、要保護種の増殖を図らない。
23.要保護種の生存を脅かさない。人工増殖は公的論議の後に専門家が行う。
24.個人の観察は、いつでも地域の記録として集計できるようにしておく。
「フィールドマナー参考文献」
A.自然観察ハンドブック:(財)日本自然保護協会(思索社)
B.自然と友だちになる法⑥街の中の森:浜口哲一(学研)
C.ナチュラリスト志願:J.ダレル,I.ダレル、日高敏隆他訳(TBSブリタニカ)
D.バードウォッチング:(財)日本野鳥の会刊
E.バードウォッチング憲章:RSPB(英国鳥類保護協会)の規約
「安全のための参考文献」
A.アウトドア危険・有毒生物マニュアル:篠永哲他(学研)
B.野外における危険な生物:(財)日本自然保護協会(思索社)