陸水

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市域の中央部を千曲川が北流し、これに22の一級河川が流入している。このうち犀(さい)川、裾花(すそばな)川、土尻(どじり)川以外の河川は市域の西部山地、東部山地に源流をもつ河川で、こう配はかなりきついものが多い。いっぽう千曲川のこう配は0.8/1000とかなり緩く、過去に何回か洪水による氾濫が記録されている。


写真1-5 長野盆地を緩やかに流れる千曲川

 水は太古の昔からその性質を変えることなく地球の表面と大気および地殻上部のわずかな範囲内で循環しつづけている。その間、水は浸食・運搬・堆積(たいせき)作用によって峡谷をつくり、扇状地や肥沃(ひよく)な平野を形成してきた。そして水はさまざまな物質を溶かしこむ目に見えない働きも怠らない。

 水循環の源である降水もまた微量ではあるが空気中の物質を取りこんでいる。近年、化石燃料の燃焼から生じる硫黄酸化物や窒素酸化物などが雨水に溶けて酸性が強くなり、pH5.6より小さい酸性雨が環境上問題となっている。1995年度(平成7)の県衛生公害研究所の調査によると長野市の雨はpH4.4~5.9の範囲にあり、市内にも酸性雨が降っていることがわかる。

 降水の一部は地表を流れて川となり、あるものは池沼や溜(ため)池の水として一時的に停滞し、また、あるものは浸透して地下水となり土壌や岩石と接触するあいだにさまざまな物質を溶かしこんで、その地域特有の水質を示すようになる。とくに接触時間の長い地下水は、その影響を大きく受けている。

 地下水は湧(ゆう)水(泉)として再び地上に出ることがある。市内には各所に泉が湧(わ)き出しているが、このなかには松代東条の松井の泉のように地質の影響を受け、カルシウムイオン・ナトリウムイオン・塩化物イオンなどを多量に含むきわめて特殊な湧水も存在する。

 いっぽう、千曲川や犀川では礫(れき)の表面に繁茂している付着性藻類(そうるい)などが光合成をおこなうため、水中の水酸化物イオンが増加し、pHが上昇してアルカリ性を呈することがある。平均pH7.1の中性河川である千曲川も夏季の日中にはpH9.0を記録している。

 このように河川の水質は地質の影響を受けるばかりでなく、生物活動によっても大きく変動している。とくに水の出入りの少ない閉鎖性水域である池沼・溜池や停滞しがちなダム湖などの水質は生物の影響を大きく受けている。これらの池沼のなかには、近年家庭の雑排水などにより窒素や燐(りん)などが増えて、藻類やプランクトンの発生率が高くなり、これらが腐敗する過程で可溶性の窒素や燐が急増してしだいに栄養塩が蓄積され、富栄養化が進んでいるのが現状である。

 湧水のなかで水温や溶解成分の量・質が異常なものは温泉・鉱泉と呼ばれている。長野市では市街地の温泉と飯綱鉱泉のほかは、長野盆地の西と東の縁(へり)に集中している。西側では西部山地の山裾(すそ)ないしはそこから沢を入ったところに九つの湧出地があり、東側では山地と接するあたりの平地に三つの温泉地がある。一般に東側の方が泉温が高く、最高は松代温泉の49.4℃である。松代地区の温泉は溶解成分の量が多く沈殿物も多い。松代群発地震の震源地に近く地震の影響がいちじるしかったことで全国に名高い。


写真1-6 富栄養化が進んでいる大座法師池