植物

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長野市の北部から西部の山地は冬の積雪の影響を受け、日本海側に分布の中心をもつ多数の植物が生育している。積雪の量や期間に比例するかのように、日本海側の気候が薄まる南部ほどこのような植物も少なくなる。市の東部山地には関東地方に引きつづいて生育分布するものがある。これらは千曲川を境に西へは広まっていない。太平洋側に生育する植物で、県の南部から入りこむものもわずかに見られる。県内の中央部は、地史的にも新しいフォッサマグナ地帯であり、それらの地域に特有な植物が分布している。

 垂直的には飯縄(いいづな)山を主に北方系の亜高山帯や高山帯植物が一部生育している。また、湿地や池沼などの特殊な環境には、生育地が限定された植物が見られる。

 長野市の大半は、冬に葉を落とし春の芽生えから夏の深緑、秋の紅葉とあざやかに変身する樹木が主となって生い茂る夏緑(落葉)樹林帯である。垂直的には広く山地帯(または低山帯ともいう)であり、飯縄山の標高1,600~1,700m以上がわずかに亜高山帯に相当する。

 夏緑樹林帯を代表するブナ林は、かつては飯縄山の山麓(さんろく)をはじめ、標高600~700m以上の山地を広くおおっていたはずである。しかし、長い人為活動の影響を受けて市内でのブナ林はすべて消滅した。代わってミズナラやシラカンバ林が立ち、シデ類などの渓谷林、湿生地にはハンノキ林がわずか残存しているにすぎない。


写真1-9 樹皮が美しいシラカンバ林


写真1-10 リュウキンカが咲きほこる大谷地湿原(芋井上ヶ屋)

 山地帯下部にあたる長野盆地周辺ではますます人為文化圏と重なってつくり変えられ、加えて内陸的な乾燥気候によって、いっそう森林植生は貧化している。盆地周辺の雑木林はコナラ・クヌギ・クリ・ケヤキ・カエデ類などからなる二次林であるが、主要な夏緑樹林が弱まるほどアカマツ林が広くおおうようになっている。つい最近まで千曲川や犀川の河辺も豊かなヤナギ林におおわれていた。人家の近くでもっとも緑濃い塊はケヤキの大木が立つ社寺林や屋敷林であった。これらの多くも画一的な人工物に置き換えられてきた。市内全域の山地ではスギやカラマツの人工林が目立っている。

 これらの特有な植物のほか、市内でもっとも多い植物は、全国に広く分布して、どこにでも見られる普遍的な広域種である。いわゆる人里植物の多くであり、一般に雑草・雑木と片づけられる仲間である。近年になって外国との交流が容易になるほど外国産の帰化植物が増加している。


写真1-11 春の訪れを告げるコブシの花。庭や街路樹にも植えられる