さて、動物に目を向けてみよう。長野市は長いあいだ、農村や山村の人びとによって、手入れされ育てられた森林や草原がある里山に囲まれている。この里山の山麓(さんろく)や山中には多くの溜(ため)池や湖沼、小川があるので、それらはいろいろな動物たちのすみかとなっている。
そのため、市内の動物相は今日においても多様さをもっている。
たとえば、化石昆虫といわれるトワダカワゲラが川の源流にいたり、原始的なチョウのヒメギフチョウが人家近くの雑木林にいたり、市天然記念物のクロサンショウウオが考えられないほどの低山、松代の皆神山山頂の池にいたりするのはその良い例である。
しかしながら、最近のもろもろの原因による環境の変化は動物たちに大きな影響を与えている。
水田の乾田化や池の水の汚れはメダカやトンボ、ヘイケボタル、トノサマガエル(正しくはトウキョウダルマガエル)などを、川の汚れはカジカやホトケドジョウ、ゲンジボタルなどを激減または絶滅させてしまった。
その反面、このような環境の変化によって、池にすむオイカワやモツゴは逆に分布を広げ、人為的に放たれたオオクチバスやブルーギルのような魚食性の強いものは、在来の魚類の生活をおびやかしている。
また、都市化地域の拡大による環境の変化はツバメを追い出し、岩場にすんでいたイワツバメを呼び寄せたり、帰化昆虫のアメリカシロヒトリやアオマツムシをすみつかせる絶好の場になってしまった。
いっぽう、最近の山林の荒廃や大木の伐採はフクロウやムササビを追い出し、生息数を激減させてしまった。
カモシカやタヌキがすんでいた雑木林へは、今日までほとんど姿を見せなかったイノシシやニホンジカ、ハクビシンなどが入りこみ、数を増やし、七二会、小田切地域までクマが出没するようになった。
また、森林性のノウサギやテン、山地の川辺をすみかにしていたイタチはめっきりその数を減らし、姿を見るのも困難になっている。
このように、大型動物の種類が入れ替わったり増えたりしたことは、自然環境の変化とともに人間が肉食用に捕獲しなくなったことによる人為的環境の変化も大きく影響しているものと考えられる。
長野市の動物の種類相は豊かであるが環境の変化や人間生活の変化と強く結びついて滅びていく動物があるいっぽうで、逆に増えている動物もいるというように、刻々変化していることがわかる。