犀川と裾花川の谷

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西部山地を流れる犀川は、流路に斜交する新第三紀層の地質構造を横断し、横谷をなして長野盆地に出る。犀川の峡谷は、河流が地盤の隆起にうちかってもとの流路沿いの土地を下方に侵食し、その結果山地を横切る横谷となったものである。このような谷を先行谷という。左右に屈曲する谷のなかを流れるような穿入(せんにゅう)蛇行の状態は、先行谷の特徴を示している。このような犀川の峡谷部の地形にも、岩石の硬軟による差異が認められる。

 市域にかかる久米路(くめじ)橋の付近では、谷幅は狭く険阻で、蛇行の幅も小さい。これはこの部分に硬質の久米路火山岩が分布しているためである。ここを過ぎて水内ダム付近から明治橋下流の飯森までは、水篠橋付近を除いて、谷はやや広く両岸の谷壁斜面は緩やかで、三水付近や安庭(やすにわ)付近で見られるように、大きく蛇行している。この区間は主に軟質の砂岩や泥岩で構成され、犀川が下方侵食とともに側方侵食をおこなって、谷底を広げた区域である。さらにその下流の保玉と犀口のあいだは、硬質の裾花凝灰岩から構成される区間で、両岸の切り立った直線的な峡谷部になっている。犀川がもっぱら河床を深く掘り下げてつくった峡谷地形である。


写真2-15 犀川の谷と段丘地形

 犀川が山地の隆起にさからって下方侵食を進めたことは、両岸に発達する河岸段丘の地形からも示される。明科町から長野市にいたる犀川河谷には、現河床から比高220~230mの高所まで、細分すると7~9段の高さを異にする段丘面が分布する。ここでは市域にかかる下流部に注目し、高位段丘、中位段丘、低位段丘、最低位段丘の四つに大別する。


図2-7 犀川・裾花川流域の段丘面分布

 高位段丘は標高500m以上、犀川河床からの130m以上の比高をもつ高い段丘群で、比高190~230mの最高位面、170~190mの高位段丘上位面、130~150mの同下位面の3面が識別される。小松原西方の上の平は犀川起源の礫(れき)層をのせる最高位の段丘面で、七二会(なにあい)戸倉・市場、篠ノ井大久保などの小平坦面もこれに対比される。上位面は狭く、分布が悪いが、下位面になると、八木(1943)が犀川の河道跡とした信更町氷ノ田地区の三水(さみず)-浅野-氷熊(ひぐま)をはじめ古宿、七二会古間など、かなり広く明瞭な段丘面が保存されている。

 中位段丘は信更町今泉・三水・上尾・安庭東方や七二会蓮等の比高70~110mの段丘で、さらに上位・下位の2面に細分される。

 犀川沿岸でもっともよく観察されるのは、比高30~50mの低位段丘で、安庭・大安寺・笹平・下平などで谷底に広い面積を占めている。最低位段丘は河床近くに分布する比高5~10mの低い段丘で、平三水橋付近や村山付近など蛇行の内側の部分によく発達している。

 以上の河岸段丘も、砂岩・泥岩地域でよく発達し、裾花凝灰岩地域では発達が悪い。

 裾花川の横谷も犀川と同じく先行谷で、長野市域では上流の裾花ダム付近と百瀬-新諏訪間で切り立った峡谷をつくっている。前者は小鍋(こなべ)峡と呼ばれ、荒倉山火砕岩類を刻む峡谷である。支流の沢尻川は懸谷(けんこく)となり、五色滝の景勝をつくっている。後者は裾花凝灰岩層を横切る部分で、裾花川は激しい穿入(せんにゅう)蛇行を示す。この両者にはさまれた区間は論地層および大久保層の泥岩・砂岩から構成される部分で、谷壁は緩く、ひらけている。


写真2-16 裾花川の谷(中央が裾花ダム)

 裾花川の河岸段丘は河床から比高約200mまで6段ほど識別され、その景観は茂菅(もすげ)付近の両岸にもっともよく観察される。