奇妙山地と妙徳山地

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神田川河谷と赤野田川河谷のあいだにそびえる奇妙山は、鮮新世にくりかえし噴出した安山岩質溶岩および凝灰角礫(かくれき)岩からなる古い成層火山であるが、開析が進み、現在では火山の原形をとどめていない。したがって地形分類上は火山とは呼べない。高くはないが急峻(きゅうしゅん)で、両側に切り落とされたような鋭い尾根をめぐらしており、壮年期の山容である。奇妙山の本峰や支峰の尼厳(あまかざり)山には懸崖(けんがい)が随所に見られ、山の険しさを際立たせている。奇妙山南西麓、清滝がかかる柱状節理の発達する岩壁は、奇妙山を構成する火山岩類で最下位に相当する清滝火山岩の安山岩溶岩である。


写真2-19 奇妙山(右)と尼厳山(左)

 奇妙山から北西ないし西方に伸びる山稜は、若穂町川田方面、松代町大室(おおむろ)方面および鳥打峠を経て松代町東寺尾方面にそれぞれ半島状に山脚を突出し、千曲川氾濫原(はんらんげん)下に没している。鳥打峠は、走向北北東から南南西の鳥打峠断層の走る断層鞍部(あんぶ)である。滝本の南、683.9m三角点の東側にも断層鞍部が形成されている。

 奇妙山の南東には堀切山(1,157m)など1,100~1,200m級の山稜がつづき、懸崖こそ少なくなるが峻険(しゅんけん)で、壮年期的に開析されている。この山域を構成するのは、主に石英閃緑(せんりょく)岩である。この山地の東部に一段と高い山稜をつくる保基谷岳は、基底の石英閃緑岩や堆積岩類を貫いて噴出した玄武岩ないし安山岩質溶岩からなり、時代的には奇妙山と同じく第三紀鮮新世の噴出物である。この山稜の東半部は比較的緩やかな傾斜の地形が広がっているが、これは、保科川の激しい頭部侵食がまだおよんでない部分である。

 保科川の東側の妙徳山地は、妙徳山(明徳山、1,294m)、熊窪山(1,254m)、さらにその南方保科川源頭部にそびえる1,402m高地など、長野市と須坂市の行政界に連なる山稜とそこから西方に派生する諸支稜から成り立つ。山地を構成する地質は、主に第三系中新統の保科玄武岩とその後に貫入した石英閃緑岩である。保科川および権五郎川水系の諸渓流により開析され、全域的に急峻な小谷と鋭い尾根が密に発達する壮年期的地形を有する。長野盆地から仰ぐ妙徳山の三角形の山容は東部山地のなかでも目をひく存在であり、この山にまつわる天気俚諺(りげん)も数多く伝えられている。熊窪山以南では一般に頂稜部付近が緩やかな傾斜になるが、これも高遠山同様、隆起準平原的な性格をもつ侵食小起伏面とみられる地形である。


写真2-20 妙徳山と山新田の麓屑面