南郷層

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豊野層団体研究グループ(1977)は、長野盆地の西縁部に分布する豊野層を不整合におおうと同時に、完新世の扇状地堆積(たいせき)物や崖錐(がいすい)堆積物に不整合におおわれる地層を、南郷(みなみごう)層と命名した。長野市北部の田子川の両岸沿いが模式地で、豊野町の南郷背後の丘陵や若槻丘陵に広く分布する。層厚は厚いところで30~40mである。

 岩相は全体に粗粒堆積物を主とするが、間に細粒の堆積物をはさむこともある。もっとも特徴的な粗粒堆積物は、裾花凝灰(すそばなぎょうかい)岩起源の礫(れき)や砂を大量に含む亜角礫~亜円礫からなる礫層であり、盆地の西縁部に沿って広く分布する(写真2-61)。これらの礫層の基質は、凝灰質の砂やシルトからなる。細粒堆積物はシルトや泥炭層である。ただし、大きな河川の影響を受ける範囲では、裾花凝灰岩以外の礫の割合が大きい。


写真2-61 裾花凝灰岩層の礫からなる砂礫層(蚊里田神社北)

 南郷層が分布するのは、北から田子川流域、若槻丘陵、三登山南麓、湯谷(ゆや)の丘陵、城山丘陵、西長野新諏訪、旭山南麓、平柴(ひらしば)の金山沢、小市(こいち)、中尾山(なかおやま)温泉入り口付近などである。土京川と田子川との合流点から100mほど上流の左岸には、下位の豊野層のシルト層を不整合におおう南郷層の礫層が見られる。同様な礫層は、田子川上流の山千寺(さんせんじ)南の地域にも分布する。

 三登山南麓の田中から浅川西条にかけての台地部は、もっとも南郷層が広く分布する地域である。かに沢や蚊里田西の沢では、下位の豊野層を不整合におおう礫層が厚く見られる。蚊里田神社東の大池へ上がる道路沿いでも見られる。これらの礫層は、裾花凝灰岩層起源の礫からなる礫層で、大小の不淘汰(とうた)な亜角礫からなる特徴的な岩相を示す。湯谷の丘陵部にも古期岩類からなる礫層が分布する。

 裾花川下流の西長野地区には、3~4段の段丘が発達する。これらの段丘は古期の裾花川扇状地の礫層を侵食して形成された侵食段丘である。この古期扇状地の礫層は、里島発電所向かいの裾花川左岸に大きく露出している。この礫層の下部からは、ナウマンゾウの臼歯(きゅうし)片が発見されている(冨沢,1979)。裾花川下流の右岸「白岩」には、図2-15に示すように裾花凝灰岩層を不整合におおって砂礫層や礫混じりのシルト層や泥炭層が分布する。この泥炭層やシルト層からは、クルミの化石(Kodaira,1921)や淡水性の珪藻(けいそう)化石や寒冷型の花粉化石(冨沢,1979)が報告されている。


図2-15 裾花川下流右岸「白岩」付近の模式断面図(加藤・赤羽,1986)

 南郷層は、豊野層堆積以後に長野盆地に堆積した堆積物で、年代は更新世中期から後期にかけてである。したがって、南郷層にはさまざまな時期の堆積物が含まれている。今後はこれらをこまかく区分していくことが必要である。