論地(ろんじ)泥岩層からは善光寺温泉付近の裾花(すそばな)川沿いのシルト岩から8種類の軟体動物化石が報告されている。これは富沢(1958)により善光寺温泉化石動物群と命名されている。
これらの化石は寒冷型の貝化石と温暖型の貝化石が混合しているのが特徴で、その時代は上部中新世である。
論地泥岩層からはこのほかに多くの軟体動物化石を産出する。
茶臼山の本層下部からは古くから植物化石を産出することが知られていた。これについては、太田繁則(1950)51種、遠藤誠道(1948)17種、遠藤誠道(1961)40種の報告がある。
棚井敏雅(1961)は、日本各地の新第三紀植物群について、それまでの多くの研究成果を整理し、各植物群の組み合わせや種、植物化石層の層位学的位置をまとめた。そして中新世植物群を古いほうから、相浦型(中新世最前期)・阿仁合型(中新世前期)・台島型(中新世中期)および三徳型(中新世後期)の4型に、また鮮新世植物群を新庄(しんじょう)型(鮮新世前期)および明石(あかし)型(鮮新世後期)の2型に区分した。茶臼(ちゃうす)山化石植物群は三徳型に含まれている。
その後、尾崎公彦(1991)は『本州中部の後期中新世から鮮新世のフローラ』のなかで、長野県の後期中新世から鮮新世の化石植物群をつぎのように分けている。
1)後期中新世の中期前半(約8Ma*)差切フローラ
2)後期中新世の後期前半(約6Ma)坊平(ぼうだいら)フローラ、茶臼山フローラ
3)後期中新世末(約5.5Ma)大岡フローラ
4)鮮新世中期(約3.5Ma)兜岩(かぶといわ)フローラ
(*Maは100万年を示す)
後期中新世の後期前半の坊平・茶臼山フローラの特徴は、低湿地から低山地の植生で、常緑・落葉広葉樹の混交林からなるが、スギ科・マツ科などの針葉樹を多くともなう。低湿地ではスイショウ属・ヌマスギ属・ハンノキ属・ヨシ属などが特徴的で、低山地の渓畔(けいはん)から斜面では、カエデ属・ハイノキ属・アメリカアサガラ属・ササフラス属・クスノキ属・スイカズラ属などの落葉・常緑広葉樹の混交である。セコイヤ属・ユサン属などの針葉樹を含むが、ブナ属をともなっていないことが特徴とされている。尾崎は26科39種を同定した。
今回の調査では、15科21種が識別された。これらを表2-12に示す。
この植物群の特徴としては、シダ目の産出が多いことがあげられる。シダ目は後期中新世の他の地域の植物群にはあまり見あたらない。
茶臼山植物群のもう一つの特徴は、この時代の他地域の植物群に多く見られるブナ科の植物化石をほとんど含まないことである。このことは、他地域との植生・堆積環境の違いを示すものである。そして、ブナ科のかわりにカバノキ科を多産する。なかでもハンノキ属の化石はきわめて多い。
バンブシーテスはイネ科の植物で、茶臼山から多産するが、形態属である。近隣の他の産地からの報告はきわめて少ない。