長野県が認可している採石場は、東部山地では松代町大室(おおむろ)茶地蔵、同東条(ひがしじょう)字ヨゴメ山、同豊栄鞍馬(とよさかくらま)、同豊栄鳶山(とびやま)、若穂保科高下の5ヵ所である。このうち、大室、東条、豊栄鳶山では大規模に採石されている。
採石の対象となっているのは、いずれも第三紀中新世の内村層中のグリーンタフ(緑色凝灰岩)である。この岩石は変質のために、全般的に均質になっており、岩質が堅硬なものは石材に適する。このほか、柴石(しばいし)と称される鮮新世(せんしんせい)の奇妙火山岩の一部も金井山で採石されている。これらの採石は、道路や橋、ダムなどの公共事業やビル建築などの骨材として利用されている。
西部山地では、坂中、小鍋(こなべ)上原、篠ノ井岡田字岡田裏の3ヵ所で採石されている。
坂中では猿丸層中の砂岩を主に採石し、造園関係に使っている。小鍋上原では荒倉(あらくら)山火砕岩層中の安山岩溶岩を採石し、骨材として利用している。岡田裏では、裾花凝灰岩層中の白色粘土化した風化凝灰岩が採石され、主に埋土に利用されている。
西長野の郷路(ごうろ)山は、赤紫色をおびた角閃(かくせん)石複輝石安山岩で、やや多孔質であり、細工が容易であることから、長年にわたり石材として採石された。ちなみに、善光寺参道(境内入口から山門まで長さ約400m、幅5.7m)に敷かれた敷石は、郷路山から切りだされた石材が使われている。しかし今は、ほとんど採石しつくされてしまった。なお、芋井上ヶ屋(あげや)の貉(むじな)郷路山と吉(よし)の髻(もとどり)山も、かつて大規模に採掘されたが、現在はいずれも休業している。
採石により山腹の緑がえぐり取られ、そこだけ地肌がむき出しているのは、遠目にも無残な光景である。これは「採石法」にも不備がある。現行の「採石法」(昭和25年制定)は、岩石の採取による災害を防止することを主目的としており、環境や景観との調和、配慮の規定がない。したがって今後の採石事業の健全な発展のためにも、災害防止対策のほか、環境や景観保全を盛りこむなどの法改正が急務となっている。