1 地球上の水と陸水

158 ~ 160

 地球は水の惑星といわれる。太陽系のなかでただ一つ水のある惑星の意味だが、地球は大気も量・質ともにほかの惑星とはまったく異なる。地球をリンゴにたとえれば、皮の厚さほどにもならない量の水だが、水の特別な性質と地球の表面にあることにより、その働きと影響は絶大で、生物の誕生と存続も水の絶妙な環境づくりのたまものである。

 物質は気体・液体・固体の三つの状態(三態)のいずれかの姿で存在しているが、水は0~100℃前後の狭い温度の範囲内で、三態のどの姿をもとることができ、相互に変身することも可能な珍しい物質である。この状態変化のさい、水は大量の熱の出入りをともなう。固体の氷が0℃でとけて液体の水に変身するさい、1gにつき79.7calの融解熱を要し、反対に1gの水が凍るさいには同量の熱を吐き出す。

 蒸発のさいは、水1g当たり25℃のときは532.8cal、100℃のとき(沸騰)は539.8calの気化熱を必要とし、水蒸気が水になるときは同量の熱が放出される。

 水は比熱も大きく1gの水を1℃高めるには1calを要する。

 このように水はいずれの変化にさいしても他の物質より格段に大量の熱の出入りをともなうため熱しにくく冷(さ)めにくく、周囲からの温度の影響を緩和する働きをしている。

 ものの密度は一般に低温の方が大きいが、水は1気圧のもとでは4℃(正しくは3.98℃)のとき密度が最大になる。湖沼の水は表面から冷やされると重くなって下降するが、底まで4℃になると以後は表層だけで冷却が進み、やがて凍結しても底の方は安泰で生物は生存を維持できる。もし最大密度が0℃であれば底の方から凍りはじめ水中の生物は氷漬けになる。

 水は近縁の硫化水素が気体であることから推せば気体であるはずだが、実体は液体で融点・沸点共に硫化水素(-82.9℃、-60.19℃)より高い。

 ここにあげた水の特異な性質は、水の分子(水の性質をもった最小の単位)がふつういくつか寄り集まって団塊をつくっていて(会合している)、この塊が一つの分子のように振る舞っているからである、と解釈されている。

 水の分子はわずかながら電気的に+-に偏った部分があり、これが会合にかかわり、また電気的に結合している物質を溶かして、結合を引き離す働きもしている。水はよくものを溶かし込むので、純粋な水を得ることはむずかしい。

 水は、成分の水素と酸素にそれぞれ3種の同位体(重さだけが違う原子)があるため、その組み合わせで18種類あることになる。天然の水は大部分がもっとも軽い同位体から成る軽い水で、その他の水(重水)は5,000分の1ほどに過ぎないが、その濃度は、陸水はもとより火山の噴気、岩石や生物の体内の水にいたるまでくわしく測られ、温泉水の起源との関連で注目されたこともあった。

 また、水素と酸素の同位体比の関係から温泉水の来歴が推定されたり、水素の放射性同位体によって地表水が地下に浸透してから湧出するまでの年数が明かされたりもする。

 このように陸水の探究は、溶解成分から水の本体へと進み、さらに水の構成成分にまで立ち入って深められてきた。

 雨水に始まり地表や地下を経て海に入り、再び雨に帰る地球上の水の循環は、その過程で生命の母体となり、農工・生活用水・発電・交通などの形で人類の進歩、発展、繁栄を支えてきた。古代文明の発祥も四大河川の流域からであった。

 他方、水害・地すべり・崩落などの水による災害もあり、治水・保水・利水の調和による繁栄の永続が求められている。

 陸水は、海水に対して陸地のうえの各種の水を総称していうことばである。地球上の水を2分する名称ではあるが、量的にはおよそ3%程度にすぎないといわれている。したがって地球の水の水質は、と問われれば、海水の水質表をそのまま示しても大差はない。

 地球上の各種の水のおよその量を知るため、それらを地球の全表面に一様に溜(た)めたと仮定してみれば、水の深さはつぎのようになる。

 海水         2,684.5 m

 陸水

  ・液体の水       1 m

  ・大陸の氷       45 m

  ・大気中の水蒸気    0.03m

 海水は、地球表面の70%を占める海面に限定すれば、その深さは3,800mとなり富士山(3,776m)の高さより深い。陸水は地球規模でみれば微々たる量ではあるが、ふつう目に触れ問題にされるのは、陸水のなかでも前記の液体の水であり、陸水といえばこの水を指すことが多い。狭義の陸水ともいうべきこの種の水は、量とは裏腹に種類が多く水質も多様である。

 水の種類

 ・大気中の水蒸気、水滴、氷片、雲・霧、雨、雪など

 ・地下水、湧水、井水、温泉

 ・河川・用水堰(せぎ)

 ・湖、池、沼、溜池、ダム

 ・極地や高山の氷雪

 ・岩石・土壌などの結晶水・結合水

 ・生物の体内の水

 ・上下水道

 県歌「信濃の国」に「海こそなけれものさわに」とあるが、長野市には万年雪と氷、海と湖のほかは一応そろっている。海にしてもまったくの無縁ではない。長野から川の水とその成分を海に送りこみ、雨を介して海の成分を受けいれている程度のかかわりはもっている。

 海洋と陸地との関係はこれにとどまらない。陸地に降る雨の量は陸地から蒸発する水分より多く、海に降る雨は海面から蒸発する水の量よりそれだけ少ない。この差に相当する水分が雨となって海から陸に供給され、陸地生まれの雨ともども地表をうるおし、一部は地下に潜るがいずれは湧水となって地上に出て、地表を流れ、道々土地を侵食し、土石を運搬し、堆積(たいせき)し、物を溶かしたりしてやがて海に入る。

 海で、運んできたものを降ろして身軽になって蒸発し、一部は陸に飛んで再び雨となる。

 この循環の過程における諸階梯の現状と変容、人の命と生活を支える水の利用の実態などがつぎの各節の内容である。