地下水に溶けている諸成分は地域・地点によって異なり、その特徴によって地下水の来歴や移動の方向などを推測することができるが、同一地点の地下水の成分が環境の変化によっていちじるしく変動することもある。
1954年(昭和29)、水田に水が入るころ、堰の水量の増加とともに伏流水による地下水位の上昇にともなって、成分がどのように変化するのか調査したことがある。
この調査によると、地下水位の上昇によってCl-などが増加している。しかし、地下水位がなお上昇を続けているあいだに、これらの成分が急激に減少していることがわかった。これは、初めの安定した地下水位より上の浅い部分にたまっていた成分を地下水位の上昇によって洗い出し、ある程度洗い出しが終わると溶けだすものがなくなり、これらの成分が減少したものと考えられる。これは、地下水位の変動が、同一地点の地下水の組成に変化をもたらした例である。
各堰が三面側溝でコンクリートにおおわれ、堰からの浸透が不可能となった現在では、地下水位がかなり低くなってきている。今回、同じ地点で調査したところ、季節による化学成分の変化はほとんど認められなかった。
Cl-についてみると、図4-18・19に示したように、1954年(昭和29)の調査では7月上旬から中旬にかけて20mg/Lからおよそ80mg/Lと約4倍に達しているのに対して、今回の調査では30mg/Lからおよそ40mg/Lと約1.3倍程度の変化にとどまっている。昭和30年代での地下水位をみると、11mから6mと上昇しているのに対して、この地域の井戸は現在すっかりかれており、水面を確認することができない状態である。各堰の三面側溝により、伏流が完全に閉ざされたためと考えられる。