温泉水の起源

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温泉水の起源については、古来二つの説があった。一つは、地下水が地熱で加熱されて地上に湧出したものであるとする、天水または循環水説である。もう一つは、岩漿(がんしょう)(マグマ)から放出された水であるとする岩漿水(マグマ水)説で、初めて日の目を見る水という意味で初生水説ともいわれる説である。

 だが、天水かマグマ水かは、溶けている成分の違いなどからは識別が困難であった。

 ところが近年の同位体化学の進歩によって、水を構成している酸素と水素それぞれの同位体比を使って、水そのものの違いによって2種類の水の判別ができるようになり、その結果、大多数の温泉水は雨が源の天水起源であることが分かってきた。

 長野市の水についてみれば、松代温泉以外の温泉は、すべて天水起源で、天水が地下で加熱され、岩石との相互作用で成分を付与されたものであり、松代温泉は化石海水と天水起源の水が混じり合ったものである。ただし、この場合の天水起源の水は、単なる地表水ではなく、塩化物イオンの濃さが4g/L、天水よりも酸素の重い同位体(重酸素18O)が0.3%ほど濃縮されている特殊な水である。

 このような水は、天水が炭酸塩鉱物を多く含む海成の堆積物層のなかを循環しているあいだに、塩化物などの物質を供与されるとともに、炭酸塩鉱物とのあいだで酸素の同位体の交換がおこなわれ、それによって重酸素を濃縮したものである、とされている。