5 効用

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 温泉は古くから湯治(とうじ)をはじめ広く休養、保養、療養に生かされ、この保健的利用形態が長くつづいた。その後高度成長期の歓楽的繁栄を経て、今、露天風呂に象徴されるような観光的利用が盛んである。

 古来の保健的利用は医学、医薬の進歩に押されて廃れたかにみえたが、温泉の穏和な総合的治療効果が見直され、傷病後の機能回復などに活用され、さらにクアハウスなどの温泉利用型健康増進施設が各地につくられるなどして、より合理的積極的な温泉利用の道が開けてきた。

 長野市の温泉は、現況の項で見られるように多数の憩いの家、温泉プール、健康増進施設、温泉旅館などで、地味ではあるが健全適正に利用されている。

 温泉の効用はこれまで、飲用も少しはあるが、主に入浴による面が利用されてきた。だが松代温泉にみられるように、長年にわたって変わることなく地中から放出される熱エネルギーと物質の量は、資源としてみれば莫大なものである。一般に、熱はほんの一部ではあるが、暖房・融雪・農業・園芸・養魚などに使われ、また、広義の温泉・水蒸気は地熱発電に使われている。一時的ではあるが、温泉に付随するメタンを主とするガスを蒸留用の熱源に活用した善光寺温泉の例もある。

 物質的の面ではホウ酸やヨウ素などが採取されているほか、わが国では戦時中輸入を絶たれて、やむなく温泉から光電管用のセシウムを抽出して間に合わせたこともあった。

 松代群発地震の折に見られたように、温泉は地下の異変を伝えることがある。異変に関連してその前後いずれかの時期に温泉の停止・発生、温度・湧出量の増減、泉質の変化などをきたすことがあり、これが地震予知に結びつかないかと考える研究もある。

 このように温泉は、その起源や通路の情報をもたらし、それが地化学探鉱に連なることもある。温泉は地下からの貴重な便りであり、温泉には保健・観光・資源のほか学術的な効用、また利用の道もあったのである。