1 涌池(わくいけ)

229 ~ 230

 150年ほど前の善光寺大地震によりせき止められてできたこの池は、湧泉などからの流入水によりきわめて多量の栄養塩が含まれている。

 栄養塩が県内湖沼で最多(平均電導度600μS/cm)であり、非火山地域で水中の蒸発残留物量が大変多い(600mg/L)この池は、国内でもきわめて稀な塩湖の一つである。

 こうした多量の湖水中の栄養塩により植物プランクトンは豊富で、クロロフィルa量が3.1~32.9mg/m3と多かった。

 植物プランクトンのなかで注目すべきは、熱帯系のジュズモモドキで、春季個体数が増殖した。細胞内に偽空胞をもち、浮遊性の糸状体の両末端に円錐(えんすい)形の異形細胞が付くことでジュズモと区別できるが、いつも異形細胞が付くわけではない。ジュズモモドキは涌池のほか富栄養湖の千鳥が池、有旅(うたび)大池、そして大座法師池にも出現している。


図4-70 ジュズモモドキ

 涌池は同じ富栄養湖の諏訪湖のようにアオコは出現しない。これは諏訪湖が生活廃水の流入による富栄養湖であるのに対し、涌池は自然の栄養塩が多いことによっているからである。

 動物プランクトンも多く、目立って多かったのはヤマトヒゲナガケンミジンコであった。

 動物プランクトン22種、植物プランクトン47種が認められた。

 プランクトン生産量が多いと、下層に厚い無酸素層ができる。この無酸素層の真上に光合成細菌が集まる。以前は紅色硫黄細菌で、この層を採水するとピンク色の水がとれた。しかし今は緑色硫黄細菌に変わっている。1940年(昭和15)、神保忠男によりこの光合成細菌の生息が発表されたことから、この方面の外国の専門書(1959年)にこの池はLake Wakuikeとして紹介されている。


表4-4 涌池の主要プランクトン