長野市の霧の年間発生日数20日(長野地方気象台『理科年表』による平年値)のうちほぼ半数は秋に集中している(第5節表5-19参照)。内陸にある長野盆地では比較的大気が安定する秋には、地面や山腹の放射冷却による冷たい空気が盆地にたまって発生する放射霧(盆地霧)が多い。また、千曲川や犀川沿いでは、暖かな川面に冷たい空気が触れてできる蒸気霧(川霧)の発生も加わるので、霧の日数が多くなる。
また、低気圧や前線が運んだ暖かい空気が残っているところへ、移動性高気圧や北の冷気団から冷たい北寄りの風が吹きこむと、地形によってはしばしば霧が発生する。このような霧は春や梅雨期にも発生する。
長野市北部の飯縄(いいづな)山や三登(みと)山では、冷たい北風で流されたこの霧の一部が山頂を越えて南側へ乗りだすが、山越えの下降気流による昇温効果で霧は山の中腹で消えていく現象が見られることがある。上田市の太郎山にかかる「逆さ霧」と同じしくみのものである。
飯縄山や三登山の「逆さ霧」(逆さ雲)については、古くから人びとの注意をひいていたようで、長野盆地にいい伝えられている天気のことわざのなかにもいくつか見ることができる。
・飯縄山に逆さ霧がかかれば、温暖晴朗の天気が急に寒冷陰曇の天気となる。しぐれがあったり、または翌朝降霜をみることがある。
・三登山に逆さ霧が下がるときは、北風が吹きつづき、冷気を催し、夏季でもあわせ、綿入れがほしい。