ヒート・アイランド

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都市部の温度上昇をヒート・アイランド(熱の島)という。これは都市内部がもっとも高温になり、郊外に向かって同心円状に気温が低下していく等温線のようすを島になぞらえたものである。

 都市では大量の熱が放出されているいっぽう、舗装や植物の減少による蒸発量の低下、大気汚染物質による温室効果などのため気温が上昇すると考えられている。都市部とその周辺の温度差は夜間にもっとも大きくなる。これは都市部の最低気温が高くなっているためである。その結果、夜間の放射冷却によって生じる逆転層は、郊外では地表まで達するが都市部では上空に逆転層ができる。このようにして都市は逆転層の下の暖かい空気におおわれてしまう。このヒート・アイランドの現象は大都市に限られたものではなく、中小都市でも郊外との気温差が1~4℃にもなることが観測されている。都市部の暖かい空気は逆転層によってドーム状に包みこまれるために、逆転層の下には汚染物質が拡散できずに大量にただよっている。


図5-64 ヒート・アイランドの構造

 都市の気温分布は、自動車に電子温度計をとりつけて移動観測する方法によって詳細に得られる。長野市についてもこの方法による観測を数多く実施したが、ヒート・アイランドの現象も何回か観測されている。

 図5-63はその中の一例である。この日は真夏のよく晴れた、しかも風のほとんどない暑い日であった。14時にはすでに市街地には36℃の高温域がみられたが、この高温域は日没後も消滅せず、20時の観測においてもその中心が市街地のやや北に移動しただけでまだ31℃ほどの温度を保って存在し、ヒート・アイランドを形成していた。この現象は長野市の他の季節でも幾例も認められた。


図5-63 等温線図 1994年8月12日 14時(赤)と20時(青)(晴れ、日中の日射は強く、風は両時刻ともほとんどない)

 風速が大きくなると都市の内外の気温差は小さくなる。わが国の中都市では風速6m/秒で気温差がなくなるという報告がある。また、雲量が多くなると気温差は小さくなり、都市部の高温域は卓越風によって風下に移動するという調査報告もある。

 都市温度の原因にはいろいろあるが、主なものはつぎのようである。