千曲川全域を見たとき、長野市付近に集中して分布している植物のなかに、オナモミの仲間であるオオオナモミ(大雄なもみ、キク科)がある。オナモミは、よくこどもがその種子を投げあい、衣服にくっつける遊びをする、俗にいう「バカ」の一種である。
オオオナモミの種子散布は、自分のなかまを増やすために果実にあるとげを使い、動物の体や人間の衣服について運ばれるという付着散布型の植物としてよく知られている。北アメリカ原産で日本へ入ってきたときにも、この特性から、綿花に付着してきたといわれている。
ところで、実際に衣服についた果実は、その重みと皮膚にとどくとげの痛さが気になって、すぐに取ってしまうのがふつうである。他の動物でも同じことがいえるのではないだろうか。道ばたでは見ることができないような大群落が、河原のあちこちに広がっている現状を見ると、他の方法によっても河原に広がってきているはずだと考えられる。
オオオナモミは、9月から10月ごろに花を咲かせ実を結ぶ。そして、なんと翌年の台風の季節、8月ごろまで約1年間にわたり、枯れたままその果実をつけて立っているのである。
これは、1年間にわたって少しずつ種子を地上に落とすことによって、発芽の回数を何度にも分けることになる。不安定な河原の環境にあって、その環境が安定する一瞬のチャンスも見のがさないようにたえず発芽を繰りかえすことは、なかまを絶やさず増やしていけることにつながるのである。
また、地面に落ちて砂に埋まった果実は、その表面のとげのあいだに湿った砂をびっしりと詰めこむと、重みを増して移動しにくくなる。オオオナモミが発芽したあとも、根がこの果実を包んで離さないことから、植物体のアンカー(錨)の役割をはたすことになる。また、このアンカーがいくつか集まることによって、さらに効果は大きくなる。
このような河川環境への適応により、現在、市内の河川敷を中心にオオオナモミはさらに増えつづけている。