オオバコ(大葉子、オオバコ科)は、人間の生活するところならどこでも見られる身近な植物である。その茎をからめて引っ張りあう遊びは、だれでも一度は経験があることだろう。
最近、道ばたや堤防、河原などにこのオオバコの仲間であるヘラオオバコ(葉は細長く、へら形)が急激に増えてきている。穂状の花序は、下から上へと咲いていく。その白く小さな花々が丸く円をえがき、そよ風に吹かれるときの微妙なゆれがとても美しく見える。
春から夏にかけて、道路の分離帯や堤防道路の両わきに一面に白い花を咲かせ、裸地に進入しやすい特徴をうかがうことができる。
このヘラオオバコのなかには、形が変化した変わりものがある。穂状の花序が根元から分かれるもの、ピラミッド状のもの、ネギ坊主のような球状になるもの、花序からさらに花序が出るものと形を変えている。これが日本で初めて、長野市の千曲川の河原で発見されたものであり、最近、エダウチヘラオオバコと命名された。エダウチとは、枝打ちのことである。なぜ、このようなことが起こるのだろうか。
ヨーロッパ原産ではあるが、現在、世界中に帰化しており、しかもこれだけ人間に身近なヘラオオバコのなかで、変わりものといえども、ごく最近まで発見されなかったことはなぜだろうか。
まず考えられるのは、最近、遺伝子の突然変異など、何らかの原因によってあらわれたものではないだろうかということである。
エダウチヘラオオバコの形態が同一ではなく(写真6-54~57)、かなり変化に富んでいるのも興味あることである。
そこには、河原で発見され現在それ以外の分布が認められないことから、河原という過酷な環境への適応があったのではないかと考えられる。人間による火入れ、夏の異常なまでの乾燥、梅雨や台風の時期の増水などの環境要因によって、限定されるなかで種の保存を維持していくため、変化があらわれてきたのではなかろうか。
河川環境へ適応している植物を見ていくことで、逆にその河川環境の変化をとらえることもできる。世界的に環境問題が心配されているなかで、ヘラオオバコに起こったこの変化は、身近な河川環境を見なおす材料となるのかもしれない。