(3) 庶民色に染めたアイ栽培

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 アイ(藍、タデ科)は、あい色の染料をとるために中国から古くに渡来して広く栽培されていた。身近に生えているイヌタデによく似た植物で、原産地はベトナム南部といわれている。栽培品種は多く、明治時代には30品種もあって畑だけでなく水田でもつくられた。

 「青は藍よりいでて藍より青し」の紺色は、まさに近世、近代を通じて庶民大衆の色である。普段着から労働着まで、地味だが奥ゆかしさがあって汚れも目立たない。しかも、染まりやすいワタの普及によって、日本の色とまでいわれるほど発展した。各地に残る植物繊維と植物染色による伝統染織は、藍染(あいぞめ)がもっとも多い。

 草木染(くさきぞめ)には、すぐ染まる直接染料と媒染(ばいせん)剤による媒染染料がある。しかし、このアイだけは葉に含まれる色素が他の物質と化合していて使えないので、「藍をだす」とか「藍を建てる」という特別な手法によった建染(たてぞめ)染料である。7~8月の開花前に刈りとって乾かし、これに水を加えて2、3ヵ月発酵させる。臼(うす)でつき固めたものが藍玉で、さらに木灰、石灰、ふすまを混ぜて30~40℃に保つと、色素が還元されて水に溶けるようになる。これに布を浸して空中でさらすと酸化され、不溶性のもとの藍となって紺に染色される。

 したがって、長野近辺で栽培されたアイは農家では加工しないで、乾燥した葉藍で近隣の染色業者へ出荷されていた。


図6-28 アイ