カワゲラ類

524 ~ 525

カゲロウ類と同じように幼虫期を水底ですごし、羽化して地上へ出てくると、ごく短い成虫の期間に繁殖の仕事をすませて死んでしまう、あまり人の注意をひかない地味な昆虫である。

 カワゲラの幼虫は、ほとんどの種類が流水にすみ、底の石のあいだを歩きまわるか、あるいは砂のなかにもぐって生活していて、ほとんど泳がない。ふつうの種類は、水のきれいな山地渓流の石礫(せきれき)底や砂底にすんでいる。渓流の大きな石のあいだに堆積した落ち葉のなかにひそんでいるトワダカワゲラや、川のなかではなく地表で湧水や滝のしぶきなどでいつもぬれている岩の表面を好むノギカワゲラのように、変わった場所を好む種類もいる。

 カワゲラの生活史や生態については、まだ十分には知られていない。非常に長いあいだ幼虫期を過ごすものがあることもしだいにわかってきている。

 写真7-252(左から2番目)のクラカケカワゲラなど大型の種類は、捕食性で、カゲロウなどほかの水生昆虫を食べるが、中・小型の種類は川底の付着藻類や落ち葉など植物遺体を食べている。

 トワダカワゲラは古代氷河時代の遺留昆虫といわれ、一科一属一種というめずらしい昆虫である。水中生活をしているので鰓(えら)があるが、写真7-252(左)でもわかるように、他のカワゲラ類と違って、尾の先端に環状に気管鰓があることからScopuraの属名がつけられた。この幼虫は1925(大正14)年十和田湖畔の小流で、川村・上野両博士によりはじめて発見されたものである。その後、長野県・石川県・富山県の山岳地においても採集され、分布・生態などの面から特異な昆虫として注目されている。


写真7-252 トワダカワゲラとカワゲラ類

 はじめは標高1,000m以上の高冷地特有の昆虫とされていたが、その後多くの研究者により、分布・生態の研究がなされた結果、飯山市では海抜350mの低い地域からも採集されていることから、標高に関係なく、ただ水温に関係することが明らかにされている。水温の適温範囲は4~14℃とされている。

 以前は、長野県に分布するのはトワダカワゲラとされていたが、その後の研究により、新たにミネトワダカワゲラという種類が記録され、本州の新潟県弥彦(やひこ)山から奥只見(おくただみ)、関東北部の阿武隈(あぶくま)山地を結ぶ線から南(長野県を含めた地域)にいるものはこの種類とされている。

 この幼虫は、水中に沈んでいる枯れ葉、新鮮な緑色葉、珪藻(けいそう)、緑藻類、カゲロウ幼虫、その他水生昆虫の弱いものを食べて生活している。いわゆる雑食性のカワゲラである。しかも、餌(えさ)がなければ、なかまの幼虫も共食いするというきわめて貪欲(どんよく)な幼虫でもある。

 また、水の汚れたところでは生活ができないが、無機酸性のところでは生息が確認されている。酸性の強い川として知られている、保科川上流の支流の一つである、西入の沢で確認されている。さらに、神田川上流の小流でも見られる。

 『長野県の貴重昆虫(1983)』によると、水生昆虫類(トンボ類を除く)のなかで、学術上貴重な種類で、国内分布のうえからみても、本県が分布の南限となっている種類としてトワダカワゲラがあげられている。