西部山地の陸産貝類

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西部山地は三登山山地~篠(しの)山山地まで七つの山地を含んでおり、15科47種の陸産貝類が見いだされた。陸産貝類は乾燥に弱い生物で、種数からしても、この地に比較的適した場所が多いといえよう。

 西部山地だけではないが、山の湿り気のある朽ち葉のなかを探すとたいがいのところから見つかるのが、ヒダリマキゴマガイである。

 ヒダリマキゴマガイは名前の示すとおり、左巻きで殻高2mm、殻径1mmの微小な種で、20倍くらいのルーペか解剖顕微鏡を用いると、殻表の縦肋(ろく)が観察できる。スギの朽ち葉は湿っているとき黒褐色なので、白っぽいゴマガイ類は見つけやすい。慣れてくれば、広葉樹のなかにいるものも見つけられるようになる。

 長野県内には、ゴマガイ類は4種類生息しているが、そのうち長野市にはヒダリマキゴマガイとゴマガイのみだった。ゴマガイは右巻きなので区別がつく。また、写真7-273で明らかなように、大きさも違う。


写真7-273 左から、ヒダリマキゴマガイ、ゴマガイ、イブキゴマガイ

 ところで、「左巻き」か「右巻き」かは貝殻の口の部分が下側になるように置いたとき、口が左側にくるのが左巻き、右側にくるのが右巻きとみればよい。

 カサキビ・キビガイも同じようなところで見つかる。一覧表を見ると気づくように、ケシ、ゴマ、キビ、ナタネなど穀物の種子名が付いた名前が多い。これは、形や大きさがその種子に似ていることから付けられているが、カサキビやキビガイは大きさというより、形で付けられた名前であろう。次ページの写真7-274はカサキビを横から見たところである。また、スギなどの朽ち葉のなかでも見つかるが、そのなかに生えている、イタドリやヒトリシズカなどの葉の裏側を注意深く見ると、サドタカキビが付着していることがある。サドタカキビは、カサキビより巻数も多く、とがった形をしている。カサキビの大きさは殼高4mm、殼径3mm。


写真7-274 スギの朽ち葉中のカサキビ

 大型種では、オゼマイマイに注目したい。陣場平山と、秋古の2地点のみで確認されたが、県内では北信地方に分布している貝である。大部分の陸産貝類は地面の上をはいずりまわっているが、なかには樹上で生活するものもある。オゼマイマイがその一つで、ほかには長野県ではミスジマイマイやクチベニマイマイがあげられる。

 海の貝には美しいものが多いが、大部分の陸産貝類は地味で、貝殻の色も目だたない。しかし、写真7-275からもわかるように炎が燃えているような火炎彩といわれるあざやかな模様をした貝である。


写真7-275 オゼマイマイ

 西部山地で特筆すべき種は、マツシマクチミゾガイである。殻口近くに2本のレールがあり、さらに中の方にも2~3本のレールがあるので、クチ(口)にミゾ(溝)があるような貝に見えるわけである。名前のはじめについているマツシマは、山形県の松島克生(かつお)に献名されたことによる。

 貝殻は茶褐色で殻高2mm、殻径3mmぐらいのまんじゅう型をした貝。これまでに、山形県・福島県・新潟県・群馬県の数ヵ所から報告があるだけで、長野県は図7-35に示したように、南佐久郡南牧村・小海町・大町市・北安曇郡白馬村・長野市の五ヵ所で確認されている。長野市は飯縄(いいづな)山の国有林内で確認された。


図7-35 マツシマクチミゾガイと分布