長野盆地の貝

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長野盆地では14科38種が確認できた。市街化し、鉄筋の建物や舗装が進んで、陸産貝類の生息環境はどんどん狭められるなかにあって、比較的多くの種が確認され驚いた。

 ことに、大型のヒダリマキマイマイは広い地域で確認され、長野市では一般的な種といえよう。その名の示すとおり左巻きの貝で、殻高21~27mm、殻径37~45mm。貝殻は飯縄山など山地のものは大型で黒っぽいが、湯谷や松代東条など盆地に生息するものは平地型の黄褐色であった。

 産卵期は7月上旬~8月上旬で、夜間に一度に40個前後の卵を土のなかに産みつける。およそ30日ぐらいで孵化(ふか)するが、成貝になるには3~4年かかる。ほとんどの野菜を食べるので、小学校の教材に適している。


写真7-276 変異の大きいヒダリマキマイマイ

 キセルガイモドキは、長野市では大室のみでの確認だったが、県内に広く分布している。

 和名の意味は、キセルガイに似ているということであるが、大きな違いはキセルガイが左巻きなのに対して、キセルガイモドキは右巻きであることから区別される。また、キセルガイのなかまは、殼の内側に閉弁といわれる蝶番(ちょうつがい)のようになった弁があって、これでふたをする。しかし、キセルガイモドキには閉弁がないので、乾燥してくるとカタツムリのように口のところに膜を張って身を守る。


図7-36 キセルガイ各部の名称
(ちりぼたんVol7,No5)


写真7-277 キセルガイモドキ

 長野市ではキセルガイ科は、ツムガタギセル、クニノギセル、ナミギセル、ヒカリギセルの4種類が確認されたが、その代表としてヒカリギセルを取りあげる。殻高20mm、殻径4mmぐらいの紡錘形(ぼうすいけい)をした貝だが、初めてキセルガイを見たときは、種名までは区別しにくい。一般には図7-36のように殻口部の形と構造とで識別している。

 ヒカリギセルの最大の特徴は主襞(ひだ)を欠き、月状襞だけがあることと、名前が示すように貝殻に光沢があることである。礫(れき)や落ち葉の積みかさなったところにすみ、ときに群生することがある。松代町の象山では、1m2に302個体も生息していた。そして、その貝にペンキを塗って、どのくらい移動するか調べたことがある。3年ぐらいしても、60個体ほどが同じ区画のなかから見つかった。陸産貝類にとっては、山一つ違えば別の世界といっても過言ではない。


写真7-278 ヒカリキセルガイ

 ウスカワマイマイも平地では多くの場所で確認された。名前が示すように、貝殻は薄く半透明でなめらか。螺塔(らとう)は高く球形に近い。

 成貝になっても、ほかのマイマイ類と異なり、殻口部は反転せず、厚くもならない。殻高20mm、殻径25mmぐらい。道端や民家の庭の草むら、田畑の土手などにすみ、人の生活と密着している身近な貝。野菜を食べたりもするので、農家の人からは害貝として嫌われることもある。

 ヒダリマキマイマイと同じように6~8月にかけて、土のなかに穴を掘って産卵する。産卵のようすを観察してみたら、6月30日午後6時ごろから産みはじめ、なんと7月1日の朝9時40分ごろまでつづいた。その時間は14時間余となる。卵は白色の球形2mmぐらい。産卵数は一度に200~300個。夜間に産卵するのは、湿度が高いことと、穴のなかに首を突っこんでじっとしているので、外敵から逃れるためと思われる。


写真7-279 交尾中のウスカワマイマイ

 長野盆地で特筆すべき種は、ヤマボタルである。ホタルといっても光るわけではない。海の潮間帯下部から水深30cmまでの砂底にホタルガイという貝がすんでいる。この貝は殻高2cmぐらいで、砲弾形をしていて、貝殻の表面がなめらかで光沢がある。ヤマボタルの名前は、海のホタルガイに似ていることから付けられた名前であろう。山のホタルガイも海のものと同様に、貝殻に光沢があるが、殻高は8mmぐらいで、海のものよりずっと小さい。

 この貝は、シベリア・北アメリカなど北極をめぐる寒冷な地方に分布する種で、すべて同一種とされている。わが国では、北海道や奥羽地方ではふつうに見られるようであるが、長野県では南佐久郡川上村と長野市で確認されているだけである。そして、この川上村は日本における南限の記録にもなっている。しかし、かつては沖縄などにも生息した種で、化石として発見されている。本種は氷期の残存種といわれ、長野市での分布は大きな意味がある。


写真7-280 ヤマボタル

 長野市の生息地は、西長野にある神社の裏山で、1981年(昭和56)11月1日には生貝を確認しているが、1994年(平成6)5月1日の調査では死に殼のみしか確認できなかった。近年はとくに乾燥がいちじるしいためかもしれないが、神社での屋根のふきかえなどがあり、その工事の影響もあったのかもしれない。今後、生息が確認された場合には、世間に生息地を知らせ、保護を訴えていくことが望まれるところである。