どこの盆地や山間の集落にも、こんもりとした緑の塊が見られる。たとえ大都市のビルの谷間でも、わずかな緑の断片は残されている。その多くは鎮守(ちんじゅ)の森として親しまれ、古くから地域に根づいて守られつづけた社寺林や屋敷林である。最近は、駐車場や物置き場になって寂しくなったが、平地林の少ない長野盆地ではどこも貴重な緑のオアシスとなっている。
神や仏を畏敬した先人たちは、どんな集落にも社寺林をつくり、神社・仏閣をうっそうと茂った森でおおいかくし、むやみに林内へ入ることを戒めた。鎮守の森は神が宿り、精霊が住む聖なる地であり、高い木は神が天くだるところだと昔からあがめられてきた。神聖な森に囲まれた広場では、祭事を通じて地域文化の交流があり礎(いしずえ)となった場所である。
長い時間をかけてつくられた社寺林は、その土地で自然に芽生えた樹木が中心となって森をつくり、風土になじんで景観的にもよく合っている。人の手が入らない森ほどその地域の植物が生いしげり、自然林のおもかげをとどめた原生林へと近づいていく。このような樹林が郷土の森であり、「ふるさとの森」と呼ばれて生活環境を守る主役であり、環境緑化の中心となるべき緑だと期待がかかってきた。