長野盆地

7 ~ 10

この東西二つの山地帯に囲まれた低地が長野盆地である。千曲川の下流域に形成された中央高地を代表する広大な盆地で、最大幅は一〇キロメートル、南西から北東に長軸をもつ狭長な盆地で、面積は三〇〇平方キロメートルもある。標高は三三〇メートルから三六〇メートルで、高度差が三〇メートルときわめて小さな、低平な盆地である。長さは更埴市の粟佐(あわさ)橋から中野市の立ヶ花(たてがはな)までの三〇キロメートルである。二〇度以上の傾斜地の多い長野県にあって、長野市は三度未満の平坦(へいたん)地の割合が高いことが特徴である。


写真1 南から望む長野盆地
盆地の中を千曲川が北流する 協同測量社提供

 この盆地は第四紀中ごろに形成された内陸盆地で、大部分が沈降した盆地域に、千曲川・犀川の洪水時の氾濫原堆積物や周辺山地から流下する河川の扇状地堆積物などによって肥沃(ひよく)な沖積地が形成されている。

 千曲川は山梨(甲斐)・埼玉(武蔵)・長野(信濃)三県(国)の県(国)境である南佐久郡川上村甲武信(こぶし)ヶ岳(だけ)(標高二四七五メートル)、金峰山(きんぽうさん)(標高二五九九メートル)のコメツガ・シラビソの針葉樹林の北斜面から流れだす。多くの支流を樹枝状に合流しながら、新潟県境の下水内郡栄村まで二一三・五キロメートル、標高差では二〇〇〇メートルを流れくだる。日本海までの総延長は三六七キロメートルで、名実ともに日本一の大河である。県域での川の長さは、ほぼ長野県の南北の長さに匹敵する。

 千曲川は長野盆地に入ると東部山地と西部山地とのあいだを縦谷をつくって流れる。千曲川の最大の支流である犀川は、北アルプス槍ヶ岳(標高三一八〇メートル)から流れ出る梓川(あずさがわ)と高瀬川が合流して、長野市若穂の落合橋までおよそ一〇〇キロメートル、標高差二八〇〇メートルを流れくだる。

 犀川は、横谷として西部山地を削り、犀口(さいぐち)(篠ノ井小松原・安茂里小市(こいち))で長野盆地に出て、その堆積物で川中島の扇状地を形成し、そのまま真東に流れて大豆島と若穂綿内地籍で千曲川に合流する。二つの大河が合流した千曲川の水量は、中野市立ヶ花地点で年間平均流量は毎秒二二〇立方メートル、年間の総流出量は約七三億立方メートルで、諏訪湖の一二〇杯分に相当する。その季節的な変化は冬場は少なく、七月の梅雨期と九月の台風期は多く、しばしば洪水を引きおこしてきた。

 洪水のたびに氾濫した堆積物による扇状地の押し出しによって、千曲川は盆地中央から南東側に押しやられる結果となった。つまり、更埴市の杭瀬下(くいせけ)地点でほぼ九〇度流れを変え、流路は東部山地の縁に押しやられていく。こうして、千曲川は盆地の東側を流れるために、平地部の広がりは左岸側で広く、右岸側で狭くなっている。

 さらに、千曲川は犀川の合流点から北流するにしたがい、西方から流れこむ川がないのにたいして、東方から流入する百々(どど)川、松川、夜間瀬(よませ)川などの堆積作用が強まるために、流路を盆地中央から西寄りに移すのである。