上ゲ屋遺跡から発見された主要な石器には、ナイフ形石器、尖頭器、掻器、彫刻器、削器、揉錐器(もみきりき)などがある。それらは、いったいどのような機能が推定されるのだろうか。
ナイフ形石器は、剥片とよばれる河原石から薄く剥(は)がされた石片を用い、その剥片の鋭い縁辺(えんぺん)を刃部(じんぶ)として残し、他の縁辺は刃潰(はつぶ)し加工をほどこし形をととのえた石器で、ものを刺したり、切ったりする道具と考えられている。切り出しナイフの形に似ていることからこの名がついたが、さまざまな形があり、直接手でもったり、短い柄(え)をつけてナイフのように使ったり、また長い柄をつけて槍先(やりさき)にしたものもあると考えられている。上ゲ屋遺跡のナイフ形石器にも形のバラエティーが認められることから、狩りの道具として用いたり、肉を切る道具であったりと、多様な用途が考えられる。尖頭器は、槍の穂先につけたと考えられる石器で、ナイフ形石器よりもさらに刺す機能が強調され、より大型で頑丈な石器が作りだされた。おそらく尖頭器の主要な役割は、狩りの道具であったと考えられる。
いっぽう、掻器は、剥片の一部に分厚い刃をつけた石器で、狩りで得た獲物の毛皮をとるための皮なめしに使われたと考えられている。彫刻器や削器は、木や骨などに溝を彫ったり、削ったりするための加工具と考えられている。また揉錐器は、皮などに孔(あな)をあける道具と考えられている(図2)。
上ゲ屋遺跡の石器から、用途によっていろいろな石器を作りわけた旧石器人の、石器にたいする高い技術水準がみてとれると同時に、豊富な道具を装備したハンターたちの姿が浮かび上かってくる。