押型文土器

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押型文(おしがたもん)土器は縄文早期を代表する土器で、平縁の尖底深鉢(せんていふかばち)土器の器面全体に、丸い棒に山形、楕円、格子目など刻みをつけた棒状工具を回転させて施文(せもん)する土器である。その分布は本州、北海道、四国、九州に広がり、地域色のある押型文土器がつくられている。押型文土器は長野県をふくむ中部高地を代表する土器群で、学史的にも古い研究の歴史をもち、立野式→樋沢(ひざわ)式→細久保式→高山寺式→相木(あいき)式と県内資料による押型文系土器群の変遷が明らかにされている。

 樋沢式土器は岡谷市樋沢遺跡を標式とする土器で、器形は口縁がやや外反し、胴部が少し張って乳房状突起をもつ尖底である。文様は多様で、口縁端や内面にも施文される例がある。細久保式土器は諏訪市細久保遺跡を標式とし、器形は口縁がゆるく外反して、胴下半部にふくらみをもつもの、砲弾形などバラエティーに富むが、乳房状尖底が顕著である。焼成度の低いものがめだち、胎土(たいど)に石英粒が多量に混入されている。文様構成比は楕円文五〇パーセント、山形文二〇パーセント、格子文三パーセントで複合文・縄文・撚糸文(よりいともん)を若干ともなっている。原体は三、四センチメートルと樋沢式より長く、帯状施文の伝統を残しながら横走する帯状施文を器面に重ねる横位密接構成、横走三帯に縦走部を密接させる例がある。これらとともに、樋沢式にはみられない不規則な走行をもつ例や密接施文の多い点が、細久保式の特徴とされている。さらに、横走する帯状施文の無文部に竹管状工具や原体の端で刺突文(しとつもん)や沈線を施したり、口縁部に耳たぶ状の貼付(てんぷ)文をもつものがある。山形文と楕円文を同一個体に施文する異種並存例や異形文と楕円文を組み合わせた複合文も多い。分布は県内全域におよんで、出土遺跡数も多くなる。