長野市の室町時代の神社

1021 ~ 1022

長野県下には諏訪神社・諏訪社とよばれる諏訪系の神社が多い。これらの建物は流造りである。また、熊野神社系は春日造りである。浅川諏訪神社本殿は流造りである。葛山落合神社本殿は春日造りであり、長野市としては珍しい。

 神社建築(本殿)は檜皮(ひわだ)葺か板葺であり、後者は柿(こけら)葺(薄い板)か栩(とち)葺(厚目の板)である。しかし近年になってそれらの屋根が銅板葺に改められた場合がある。葛山落合神社本殿と、浅川の諏訪神社本殿はいずれにしても板葺であり、正覚院境内社の諏訪社は一枚の板葺である。

 当初の彩色は消えてしまっているものが多いが、幸いにも覆屋のなかにある場合は、風化、退色から免れて垂木や軒裏、梁や組物の裏側などに創建当時の彩色や模様が残っている場合がある(図8斗の模様、図20桁の模様)。

 また、向拝や妻部にほどこされた彫刻や刳形・絵様は動植物となり極彩色で飾られ、ときには妻壁や脇障子に陽刻の彫刻画、壁や軒支輪(のきしりん)には波や瑞雲などの彫刻か絵がほどこされている。また母屋の正面の小壁に、日月(じつげつ)、牡丹(ぼたん)や菊の図が描かれる場合もある。

 浅川諏訪神社本殿は実肘木の渦巻絵様には墨が入っている(図20、蟇股に渦巻が残る)。さらに本蟇股はその形と内側の彫刻が見せ場であり、葛山落合神社本殿の本蟇股の彫刻は牡丹の透かし彫りである。彫刻が多くなるのは室町時代からである。浅川諏訪神社本殿の妻飾りの花肘木(拳鼻に似た刳形)はみごとである。妻飾りとしては葛山落合神社本殿の正面妻壁(春日造りの妻部分)の木連(きつれ)格子は斜めの菱形(ひしがた)の格子で貴重な存在である(図14参照)。

 本殿には神社でも仏寺でも、濡縁(ぬれえん)、切目縁が母屋をめぐるものがある。縁側には高欄(こうらん)(手摺(てすり))が付くが、階段の上にある親柱(おやばしら)の頂部は擬宝珠(ぎぼし)となる。古いものは三角形(おむすび形)である。前山寺三重塔の初重の切目縁に付く高欄の擬宝珠、浅川諏訪神社本殿の擬宝珠は素朴な形が美しい(図12、図35―25、図22参照)。

 とくに室町時代の神社建築には「皿板付斗(さらいたつきます)」がみられる(寺院建築にもある)。後述するように「善光寺造営図」の熊野社、神明社に皿板付斗があった(図23参照)。葛山落合神社、同社摂社の諏訪社、浅川の諏訪神社の各本殿にはこの皿板付斗がある(図15、図16、図20参照)。


図12 親柱と擬宝珠 下ぶくれの形が古式