紙本著色本願寺聖人親鸞伝絵(しんらんでんえ)

1064 ~ 1065

市文 一五世紀 篠ノ井塩崎 康楽寺蔵 絹本墨書、彩色 巻子装四巻 各巻長約一一・〇~一四・〇メートル、各幅三二・一センチメートル

 標題の伝絵は親鸞(しんらん)の生涯をしるした行状記である。詞書(ことばがき)と極彩色にいろどられた絵を交互に組みあわせて四巻にまとめあげている。製作年代は室町時代中期をくだらない。この伝絵には二種類あり、ひとつは根本伝絵といわれ、覚如(かくにょ)が永仁(えいにん)三年(一二九五)にあらわした詞書にもとづき、二巻に絵画化されたものが最初である。しかしこの原本はすでに失われている。もうひとつは、康永(こうえい)二年(一三四三)に、康楽寺円寂および弟子の宗俊によって描かれた康永本があげられる。

 本寺の伝絵の奥書の末尾に「于時(ときに)永仁第三暦応鐘(おうしょう)(十月)中旬」二天至晡時(日暮れ時)終草書之篇〓(おわんぬ)」執筆覚如」画工法眼浄賀」号康楽寺」と記されているが、本寺の伝絵は四巻であることから、康永本の系統に属することがわかり、この銘記は根本伝絵の年紀を示しているが、画工の康楽寺浄賀は、根本伝絵の系統をひくものには確認されず、康永本の諸本にその名がしたためられている。本寺では、浄賀を康楽寺二世と伝えている。宗祖の伝絵をおしひろめようとした覚如の周囲には、康楽寺を号とする絵師がほかにもいたことが知られていることから、浄賀もそのひとりであったのであろう。現存する親鸞伝絵の多くが京都で製作されていることから、奥書にしるされている康楽寺名は、かつて京都に存在していた康楽寺をさしているものと思われる。


写真17 紙本著色本願寺聖人親鸞伝絵(部分)