刺繍(ししゅう)阿弥陀三尊来迎図

1065 ~ 1066

未指定 一六世紀 元善町 善光寺本坊大勧進蔵 軸装 刺繍 縦三九・九センチメートル、幅二三・五センチメートル

 白雲に乗り死者を迎える阿弥陀三尊の来迎図である。如来の光背は円状に光芒(こうぼう)を放った頭光で、通例の来迎印を結び踏み割蓮華に立つ。観音菩薩は蓮台を捧げ、勢至(せいし)菩薩は合掌し、両膝(ひざ)をやや屈する姿で立つ。繍法は鎌倉時代の特徴である刺し繍を主としたもので、全面に刺繍がほどこされている。光背や尊像の輪郭など、部分的に変化をつけるなどの工夫、如来や菩薩の着衣の文様などに、緻密(ちみつ)な繍法がうかがえるが、全体的に絵画の模写性が強い。また長い年月をへているため、光背の金彩や他の彩色は褪色(たいしょく)がすすんで、褐色化し、刺繍絵が独特にもつ多彩、重厚さ、またその絢爛(けんらん)さがそがれている点は惜しまれる。

 仏教の伝来による繍仏の歴史は七世紀初期にさかのぼるが、中世以降、鎌倉・室町時代に入り、浄土信仰が庶民のなかで隆盛すると、その熱望にこたえるかのように、繍仏による阿弥陀来迎図が盛んにつくられるようになった。さらに繍仏にとどまらず、寺院の荘厳具(しょうごんぐ)とした幡(ばん)や、須弥壇(しゅみだん)の敷物などに刺繍がほどこされ、寺院の本堂は、きらびやかな装飾におおわれるようになった。

 本寺の刺繍阿弥陀三尊来迎図は隆盛した中世にさかのぼるもので、製作年代は室町時代中期と推定される。伝存する中世にさかのぼる来迎図の繍仏は、重文の西念寺(石川県)、中宮寺(奈良県)などが著名なものとしてあげられるがその遺例は少ない。現在、県下にはほかに確認されず貴重な遺例といえよう。