重文 一二世紀 若穂保科 清水寺蔵
鉄製・鍍金(ときん) 金銅雲竜文象嵌(うんりゅうもんぞうがん) 全長四二・四センチメートル、枝張一六・七センチメートル
鍬形(くわがた)とは兜(かぶと)のなかで、眉庇(まびさし)の上に立てる二本の角のような飾り物のことをさす。現在、本寺に収蔵される鉄鍬形は、わが国では最古と称せられ、甲胄(かっちゅう)史上、鍬形の源流と位置づけられている。
形姿は、細長い枝が左右とも垂直に近く、上方に並列して伸び、枝部の鉄板を菊座の錺鋲(かざりびょう)を用いて取りつけ、その先端に銀杏(ぎんなん)形の刳(く)りをほどこしている。後世の鍬形と比べ簡素であるが、流れるような曲線の美しさは洗練されている。なお中間の節となっている刳りは、鹿などの動物の角を象徴したものか、または朝鮮半島に伝わる金銅冠の立物装飾に由来するものか、興味深い。
鍬形の根元にあたる台表には、金銅雲竜文の象嵌が認められ、奈良・平安時代に盛行した螺鈿(らでん)嵌入と同様の平象嵌の手法が用いられている。製作年代は、平安時代、一二世紀前半にさかのぼるものと推定される。なお寺伝によると、坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が奥州遠征の帰路、本寺に詣で、この鉄鍬形ほか八件と直刀一振りを奉納したと伝えられている。