未指定 一六世紀(明時代) 松代町松代 真田宝物館蔵
木製 漆(うるし)塗 径九・七センチメートル、高三・二センチメートル
鎌倉・室町時代には、わが国に中国大陸からさまざまな文物が舶載(はくさい)され、唐様に屋敷の室内を飾り、そのなかで唐様に飲食を楽しむ風潮が流行した。とくに珍重されたものは、調度品として室内に飾られた唐物漆器である。真田宝物館に収蔵されている、朱屈輪香合はこの舶載彫漆(ちょうしつ)の典型的な例といえよう。
造りは円形の印籠蓋(いんろうぶた)造りの中形香合で、このような曲文は屈輪とよばれている。蓋表の構図は、左右に伸びる蕨手文(わらびてもん)を三ヵ所、ところどころに突起をもうけ変化をもたせ、巧みな曲線で連続させている。そしてまた、表面には朱・黄・緑・黒など各種の色漆を一九層塗り重ね模様を彫りだしている。このような手法を彫漆とよび、その彫り目には各層の色彩があらわれ、独特な色合いをみせている。鑿(のみ)による鋭く深い彫り、色漆の華やかな効果、的確な彫技など、すぐれた彫漆の優品といえよう。現在香合の底部、内面の黒漆地に、刷毛(はけ)目の褐色の漆が認められるが後補である。また底部の塗りにも剥落や浮きが認められる。