源氏物語事書裏書維摩詰経(ゆいまきっきょう)写経

1094 ~ 1094

附重文 一二世紀後半 元善町 善光寺本坊大勧進蔵

紙本 墨書 巻子装 本紙一八枚継ぎ 縦二六・五センチメートル、幅八六八・七センチメートル

 本写経は、本紙一八枚継ぎ、罫線(けいせん)のなかに一行平均一七字、一枚二七行となっている。内題は「維摩経香積仏品(ぶっぽん)第十」「菩薩行品第十四」「見阿閦(けんあしゅく)仏品第十四」からなり、外題は「維摩詰経巻下」とつけられている。なお奥書には、天養二年(一一四五)五月十四日の年紀銘、それにつづいて吾師覚厳か大中臣(おおなかとみ)氏らの供養のために書写したことがしるされているが、覚厳および大中臣氏は、いかなる人物であるのか不詳である。

 故人の供養のために写経をおこなう思想は、すでに奈良時代におこり、平安時代末期には末法思想の流行により、貴族を中心とし、自分の極楽往生、来世への成仏を祈って写経が盛んにおこなわれるようになった。このような時代背景にもとづき本写経は、平安時代後期の趣をこんにちにとどめ、『源氏物語事書』とともに、貴重な遺墨といえよう。