右にみた長国寺開山堂(真田幸道霊屋(たまや))のほかに、松代地区には県宝指定の近世寺院建築が三件ある。まず、大英寺の本堂と表門がある。上田藩主時代の元和(げんな)六年(一六二〇)真田信之は亡くなった正室大蓮院(だいれんいん)(小松殿)の菩提(ぼだい)をとむらうため大英寺を建立し、松代に移封された翌々寛永元年(一六二四)松代町へ大英寺と大蓮院霊屋を移した。大英寺は享保(きょうほう)十九年(一七三四)と明治五年(一八七二)に焼失したが、霊屋は寛保(かんぽう)元年(一七四一)に改造されて残り、明治五年以降は本堂として利用された。
本堂は方五間の入母屋(いりもや)造り、平入、桟瓦葺(さんがわらぶ)きで、向拝(ごはい)がつく。四方に回り縁をめぐらせてあったが、今は背面部分はない。向拝は、几帳面(きちょうめん)取り角柱を虹梁(こうりょう)でつなぎ、絵様木鼻(きばな)をつけ、組物は三斗(みつと)、中備は本蟇股(ほんかえるまた)である。手挟(たばさみ)には菊の彫刻をほどこす。
主屋(おもや)は、外部では円柱の上に舟肘木(ふなひじき)をのせ、軒は一軒(ひとのき)の疎垂木(まばらたるき)、軒裏は木舞(こまい)打ち、柱は白木という軽快な構造である。正面中央に桟唐戸(さんからど)を入れ、ほかは縦連子窓と板壁。妻飾りは虹梁(こうりょう)に大瓶束(たいへいづか)で、虹梁下には三斗と本蟇股を入れる。内部は、前方二間通りを外陣とし、内陣境に円柱を立て敷居格子の間仕切を設ける。天井は内外陣とも鏡天井。外陣には組物がなく、天井は墨絵。内外陣境および内陣は、粽(ちまき)つき円柱で、組物は禅宗様出組、天井に天女の絵がある。外陣の柱は黒漆塗り、内陣の柱は漆箔(しっぱく)、長押(なげし)・組物などには極彩色をほどこすなど、豪華な建物である。
大英寺本堂は真田家の霊屋のなかで最古のものであり、じっさい江戸初期の特徴を残してもいる。しかし、建物全体を当時のものとするには問題点が多い。享保十九年の火災で大きな被害をうけ、その後寛保元年に焼け残った旧材に新材を加えて再建された可能性が大きい。