流行神と石碑

627 ~ 628

先にみた元文五年(一七四〇)、寛政十二年(一八〇〇)の庚申塔のように、市域では年を限って、あるいはほんの数年のあいだに、広い地域にわたって同じ種類の石造物が建てられている例がいくつかみられる。たとえば享保四年(一七一九)に造立された地蔵菩薩や文化十三年(一八一六)に造立された南無阿弥陀仏の六字名号塔などがそれである。庚申塔の造立は六〇日に一度、六〇年に一度の庚申の日や年を節目として重要視する庚申信仰が背景にあったが、享保四年の地蔵菩薩や文化十三年の六字名号塔造立の背景には、流行神(はやりがみ)とよばれる短期間のあいだに生じた熱狂的な信仰の高まりの現象をみることができる。以下では市域におけるこの二種類の石造物から、当時の人びとの信仰のようすを探ってみたい。